「睡眠薬」とは違い、医師の処方なしに手軽に買うことができる「睡眠改善薬」。「抗ヒスタミン剤」と呼ばれる薬だが、パッケージや説明書に〈次の人は服用しないでください。「日常的に不眠の人」「不眠症の診断を受けた人」〉と書かれているように、正しく使用しないと深刻な不眠症に陥る可能性もある。副作用で日中にふらつき、頭痛などの症状が出ることがあると、専門の医師は指摘する。
国立精神・神経医療研究センターの精神保健研究所で精神生理研究部部長を務めている三島和夫医師はこう語る。
「実は、不眠症の治療は初期の1~2カ月が非常に重要です。不眠症であるにもかかわらず、睡眠改善薬を使い続けてその時期を逸してしまうと、深刻な不眠症へと陥り、治すのが大変になります。昔は、かゆみなどの不眠の原因さえ取り除けば、不眠は治ると信じられていました。しかし、不眠をある一定期間続けてしまうと、からだがその負のサイクルを記憶したかのように、たとえ原因が取り除かれても不眠だけが残るケースが多いことが判明したのです」
製薬会社が説明するとおり、長期の使用は禁物のようだ。ただ注意書きには記されていても、そういった説明を受けることがなければ、本来医師にかかるべき不眠症を見過ごして、悪化させてしまう危険もある。睡眠総合ケアクリニック代々木の理事長である井上雄一医師は、次のように指摘する。
「出張などの環境の変化や騒音など、はっきりと原因がわかっている軽い不眠症状であれば、抗ヒスタミン剤の睡眠改善薬でいいでしょう。抗ヒスタミン剤であれば、商品ごとの大きな差はないと考えています。ただし気をつけてほしいのは、不眠症の人が『睡眠改善薬を飲めば病院に行かなくていい』と考えるのは間違いだということです」
三島医師が睡眠改善薬の注意点として挙げているのが、副作用である「持ち越し効果」だ。
「持ち越し効果とは、翌朝以降にも薬の効果が持続するために、眠気やふらつき、倦怠感、頭痛などの症状が日中に出ること。作用時間が長いものほど、また高齢な人ほど、持ち越し効果が出やすいといえます」
では、睡眠薬とどう違うのか。井上医師はこう説明する。
「睡眠薬の作用をマイルドにしたものが睡眠改善薬というわけではなく、この二つはまったく別の薬です。昔の睡眠薬は脳全体の働きを低下させることで眠らせていましたが、現在は改良され、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬がよく使われています。睡眠薬は規制が厳しいため、安全性が精密な検討により確かめられていることが特徴です。ベンゾジアゼピン系には多種類があり、不安や緊張を緩和する作用、眠気を誘う作用、筋肉をほぐす作用の強さが異なります。診察で、年齢や体形、症状、ほかに病気がないかなどを総合的に診て、睡眠薬を選択していきます」
つまり、睡眠薬は医師の診断にもとづいて適切に処方すれば、不眠症を治すことができる。三島医師は、「睡眠薬を使用した人のうち、1カ月以内にその使用を終了する人の割合は約60%というデータが出ている」と話す。前述したとおり、初期治療が肝心なため、睡眠薬は早期に正しく使い、早めに「卒業」することが望ましい。
※週刊朝日 2013年11月15日号