福島第一原発の汚染水対策に関して、作家の室井佑月氏は、この問題が延々とつづくことを危惧している。

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「今さら騒いだって、しょうがない」

 みなさんはこの台詞を使ったこと、もしくは使われたことがあるだろうか。 あるよね、きっと。普通に生きてりゃ、よく聞く台詞だ。どういう時に使われる? 駄目駄目な人や物事に対してなんじゃないか。

 大事なテストが近づき、前日まで遊びほうけていた息子に。酒が大好きで、毎日たくさん飲みすぎて、肝臓を痛め通院することになってしまった親父に。給料以上に金を使い、多重債務者になってしまった友人に、あたしはいったことがある。

 ちなみにあたしは最近、糖尿病になってしまったのだが、「どうしよ、ヤバいよ」と騒いだら親や友人から、「今さらだよね。しょうがないじゃん。これまでの生活考えれば」みたいなことをいわれた。

 まあ、そういわれても納得する。膵臓を摘出し、医者から再三、「糖尿病には気をつけろ」と注意されていたが、酒も食べ物も自重できなかった。自己責任だろう。

 でも、これはどうなの?

 10月25日付の毎日新聞に、民主党の汚染水対策の調査結果に関する報道が載っていた。

『民主党の東京電力福島第1原発対策本部は24日、政権与党当時の汚染水対策の調査結果を発表した。地下水を食い止める遮水壁の設置が遅れたことをめぐり証言が食い違っていることなどには触れず、公表済みの汚染水対策を列挙するだけの内容となった』

 たしか遮水壁を巡って、原発の陸側と海側双方に設置する案を、東電が金をケチって海側だけにしたと、馬淵澄夫元首相補佐官が告白したんだよな。東電は「事実を確認できない」と誤摩化しているけれど。

 新聞によれば、馬淵氏と東電の主張の違いに関して、「平行線で書いても意味がない」(党幹部)からと盛り込まなかったそうだ。ええーっ! それって「今さら騒いでもしょうがない」ってこと?

 福島第一原発事故に関しては、なぜ事故が起きたのか、そして事故後の対処は本当に最善を極めたのか、まだまだわかっていないことが多い。というか、これからも延々とつづくのだ、この問題は。日本中、世界中の人々が関わる重い問題に、あの台詞を出してきちゃいけないよなぁ。

 20日の豪雨で、汚染水を貯蔵するタンクの周りを囲った堰から汚染水が溢れ出た。なんでも、気象庁が降雨量を約10ミリと発表していたから、東電は約20ミリの雨量に対応できるよう準備していたんだという。で、現実では雨量は100ミリを超えてしまった。

 今現在(10月25日)台風27号、28号が近づいているが、対処のしようがないというニュースもあったり。

 あの便利な台詞があるから大丈夫ってか。それで最後は乗り越えるってか。

週刊朝日 2013年11月15日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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