元モルガン銀行東京支店長で「伝説のディーラー」の異名をとった藤巻健史氏は、我が国の収支のバランスの悪さを見て、税制をめぐる政策に苦言を呈している。
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世界の徴税方針にはひとつの方向がある。
直間比率の是正(所得税などの直接税の比率を下げ、消費税などの間接税の割合を上げる)、法人税の減税、相続税の撤廃などである。すべての国が国際競争力を維持するための税制を模索している。唯一、逆方向に走ったり(相続税の増税など)、はるかに遅れて進んだり(法人税減税など)、そんなことをしているのが日本の税制である。
日本国は13年度予算で「租税及印紙収入」と「その他収入」を合わせて47兆円しかないのに、92兆円も使おうとしている。支出過多を20年以上重ねているがゆえに1千兆円もの借金をためてしまったのだ。
家庭で例えれば、毎年470万円の年収しかないのに920万円も使っていることになる。そんなに使っているからこそ楽しく一見豊かな生活ができるのだが、いつまでも続くわけがない。本来は収入に見合った生活、すなわち470万円の支出しか許されないのだ。
国でいえば、年金の金額も警官の人数もごみ収集車の台数も半分の世界である。豊かな生活に慣れた日本人が耐えられるのだろうか? 耐えられないのなら他国同様、国際競争力を向上させ、収入を増やすしか道はない。大きな武器は税制だ。だからこそ、各国は税制に工夫を凝らす。「取れるところから取る」税制ではもうないのだ。
消費増税とセットで議論が進む復興法人税の廃止前倒しに対して、「個人相手の所得税は無視し、企業だけに配慮するのはずるい」という反論がある。感情論としてはよくわかる。
しかし、考えていただきたいのは、日本政府が税金をとる相手は日本企業だけではないという点だ。諸外国よりも高い法人税ならば、外国企業の撤退はもちろんのこと、日本名のついた企業も活動をますます外国に移す。企業の持ち主である多国籍の株主には、それが合理的だからだ。そうなると日本人は仕事を失う。人は自分が働くかお金に働いてもらうしか生きる術はないのに、仕事を失えば日本人はどうやって生きていくのだろうか? 経済鎖国時代の発想はもう通用しない。
※週刊朝日 2013年11月1日号