遠隔操作ウイルスに感染したパソコンから犯罪予告が書き込まれた、一連の「なりすまし」事件。「真犯人」と目される人物からの挑発に対し、警視庁と大阪府警などは19日、合同捜査本部を設けた。

 犯行声明メールにより、「真犯人」は少なくとも、大阪のアニメ演出家の男性や三重の男性など5人のパソコンを遠隔操作し、13件の犯行予告が実行されていたことがわかった。うち、逮捕していた4人すべてが誤認逮捕だったとみられる。前代未聞の「冤罪」事件である。

 捜査を混乱させた理由の一つに、遠隔操作の際に発信元の痕跡を隠す匿名化ソフト「Tor(トーア)」の利用がある。

「Torは米国海軍が開発したソフト。世界中に散らばっている米国のスパイたちとの連絡手段として、送信元となる『足』が付かないようにするために作られたと言われている」

 あるネットセキュリティー関係者はTorの当初の利用目的について、そう話す。

 メール送信やウェブサイトへのアクセスでは通常、「ネット上の住所」と呼ばれるIPアドレスが残り、利用者を特定できる。ただTorでは、海外をまたいで複数のサーバーを経由させることで発信元を秘匿でき、利用者の匿名化が図れるのだ。

 諜報活動の支援を主眼に開発が進められた技術だが、その後は民間レベルで改良された。

「いまでは企業の内部告発や、ジャーナリストの国内外での活動など、送信元が割れるのを防ぐ目的でも使われている。国家機密情報の漏洩で話題になった『ウィキリークス』への投稿にも、Torが使われています。FBI(米連邦捜査局)ですら、手を焼くほどです」

AERA 2012年10月29日号