中国広東省で、“カドミウム汚染米”が見つかり、騒動が中国全土に広がっている。原因は土壌汚染で、中国ではこうした環境汚染による公害病が多発している。これまで湖南省から買い付けた米から、国家基準値を超える重金属のカドミウムが検出されている。
なぜ湖南省産米はカドミウムに汚染されているのか。それは、同地方が歴史的に中国有数の非鉄金属の産地であることと深く関係している。
週刊誌「新世紀」によると、同省では長期にわたり企業が非鉄金属の鉛や亜鉛を掘削、精錬する際に大量のカドミウムを用い、その廃水を垂れ流してきた。それが用水路に流れ込み、田や畑を汚し、さらにコメなどの農作物の汚染につながっているのだ。その裏には、企業側の無責任体質や、重金属を含んだ廃水への「危険意識」が低いという問題が潜んでいたわけだ。
カドミウムは、かつて公害大国だった日本にとってなじみ深い。三井金属鉱業が鉱物の精錬の際に使用したカドミウムが神通川に流れ、70年代前半まで下流の富山市で骨軟化症を特徴とする病気が発生した。患者が「痛い、痛い」と泣き叫んだことから「イタイイタイ病」と名付けられ、世界でもまれに見る深刻な公害病として知られるようになったことは有名だ。
中国でもカドミウムが原因と思われる、イタイイタイ病に類似した症例が見つかっている。新世紀は、ある患者の様子を次のように伝えている。
「(28年間、カドミウム汚染米を食べ続けている)84歳の李文驤さんは、この20年まともに歩いたことがない。100メートルも歩かないうちにくるぶしからももにかけて耐えがたい痛みが走るからだ。李さんは自分の病気が何であるかわからず、“軟脚病”と名付けた。彼が暮らす広西チワン族自治区陽朔県の村には、彼以外にも10人ほどの老人が同じ症状で苦しんでいる」
こうした症状がみられるのは現在、カドミウム汚染米の生産地の農民だ。都市部で被害者が出ていないのは、カドミウムなど重金属汚染による障害は、長期的に摂取してはじめて自覚症状が現れることが原因と思われる。
中国では、都市と農村の格差があらゆる意味で大きい。農村は貧しい生活を強いられているところが多く、学校教育などもひどく遅れている。そのため、汚染米を食べている農民の大部分は、コメが有毒であることを知らないばかりか、そもそも重金属が何であるかを知らないのが実態だ。中には、汚染を知りながらも、価格の高い、汚染されていないコメを買うことができず、食べ続けている農民もいるという。
※週刊朝日 2013年10月11日号