子宮頸がんの原因の95%以上は、おもに性交渉によって男性から感染するHPV(ヒトパピローマウイルス)によるものだ。そのため性経験が豊富なほど、がんの発症リスクが高まりやすいと思われがちだが、筑波大学病院産婦人科教授の吉川裕之医師は「それはまったくの間違いだ」と憤る。
「確かに、1970年代にアメリカで実施された疫学研究において、子宮頸がんの重要な危険因子の中に『性行為の開始年齢が早い』と『セックスパートナーの数が多い』という二つが挙がったことはあります。しかし、私が実施した研究では、子宮頸がんになる手前の状態(前がん病変)になった日本人女性の3分の1は、夫など一人の男性以外に性交渉の経験がない人でした」(吉川医師)
女性が一生涯にHPVに感染する率は8割、そこから前がん病変に進行するのは1割程度、実際にがんと診断されるのは、全体の1%だ。つまり、子宮頸がんになる1%を「性経験が豊富」というのであれば、女性の8割やそのパートナーすべてが経験豊富、というのに等しい。
子宮頸がんがこのような誤解を招きやすいのは、「HPVに感染すること」と「感染が持続してがん化すること」を一緒くたにして考えてしまうことによる。最近では、HPVに感染すると、ウイルスを排除しにくい体質を持つ人がいることなどもわかってきている。
「子宮頸がんになったことを周囲に話したことで誤解を受け、体だけでなく精神的にも苦痛を感じる人が少なくありません。こうした偏見は絶対にあってはなりません」(同)
※週刊朝日 2013年9月20日号