先が見えない尖閣問題。日本は、「尖閣諸島は日本が実効支配しており、領有権問題は存在しない」と主張するが、「これが国際社会で通用すると思ったら大間違い」と元外務省国際情報局長・孫崎享氏(69)は苦言を呈する。
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「第2次世界大戦後、カイロ宣言やポツダム宣言などに従い、これらの島々を含む占領された領土は中国に返還された」
9月27日、国連総会の一般討論演説で、中国の楊潔箎外相は、世界にこう訴えかけました。
1943年のカイロ宣言は、日本が清から奪った領土を中国に返還すると定めています。日本はカイロ宣言の履行を求めたポツダム宣言を受諾しました。日本が1895年に尖閣諸島を領土に編入したことは、「清から奪った」という位置づけになる可能性がある。いわゆる条約合意を基盤にすると、中国側の言い分が相当通るという可能性を、日本の人々がどれだけ知っているでしょうか。日本はあまりにも歴史を勉強していない。
野田首相は、カイロ宣言もポツダム宣言も知らないのでしょう。一度でも目を通していれば、恥ずかしくて国連総会で「領有権問題は存在しない」なんて言えないはずです。
まず大切なことは、尖閣諸島は係争地であるという認識に立つことです。係争地であることを出発点にすれば、次は日本がどうやって実効支配を続けていくか。そこで「棚上げ」論です。1972年の日中国交正常化に際し、田中角栄首相と会談した周恩来首相は、「小異を残して大同につく」と言いました。78年の日中平和友好条約を巡り、鄧小平副首相は、「我々の世代に解決の知恵がない問題は次世代で」と語りました。こうして尖閣の問題を実質的に「棚上げ」してきた。実質的に中国は日本の実効支配を認めてきたわけです。「棚上げ」によって、日本は有利な立場にいられたのです。このメリットを、いま一度考え直すことが大事です。
※週刊朝日 2012年10月12日号