幸いなことに、この二十年の間にイスラエルはいくつかの技術を開発し、水供給はもはや主要な問題ではなくなりました。あまりにも水の供給が不安定だったので技術的に解決する道を模索してきました。今は海水淡水化、浄化設備を使用して地中海から大量に取られた海水を飲料水に変えています。2020年には、イスラエルの飲料水の大部分はこの淡水化と浄化設備からもたらされます。
農業で使用される水の大部分は、リサイクル水を使っています。イスラエルの家庭で使用される水の約90%が農業で再利用されます! つまり、家庭の蛇口から流される90%の水がその後リサイクルされ、最終的に畑などの農地に吸収されます。世界で2番目にこのようなリサイクル水のシステムを採用する国はスペインですが、それでも家庭排水の再利用率は16%のみです。
またイスラエル南部の小さなキブツ(農業村)では、チューブを使って水を供給する点滴灌漑技術を発明しました。これは、従来の農場で使用される水の最大70%を節約して作物を育成します。この技術は現在、日本を含む世界中で使用されています。
水不足に取り組むためにイスラエルが行った技術開発は、飲料水と農業の両分野で成功していることが証明されています。またこれらの水問題の解決方法は政治にも影響を及ぼしました。20年前まで中東における水をめぐる紛争は、国際政治の緊急課題の1つでした。現在は安価に水を淡水化する技術革新のおかげで、水資源はイスラエル―アラブ紛争の主要なポイントではなくなりました。
○Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年エルサレム・ヘブライ大にて政治学および東アジア地域学を修了。07年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に送られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。12年エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。