その多さにあっけにとられているあけみさんに、対応した警察官が見せてくれたのは、Lサイズ版の写真だった。あけみさんは「あっ」と声を上げた。自分がプレゼントしたエプロンとヤツ子さんが自分で作った前掛けが写っていたからだ。ヤツ子さんはワカメを仕分けする仕事をしていたので、水がかかってもエプロンが汚れないようにと前掛けをしていた。

「DNA鑑定しますか?って聞かれたけど、母のものに間違いなかったし、一刻でも早く会いたかった。なんでもいいから母に会わせてくださいって頼んだんだけど、会わせてくれないの。私のすぐ2、3メートル先のブルーシートの向こうには母の遺体があるのに」

 震災から3カ月、あけみさんは必死で両親の行方を探した。やっと見つけた母親に、なぜ会わせてもらえないのか。

「実の娘に会わせられないってどういうことなんだ! そこにいるんだから、会わせて!って、くってかかっちゃった。そしたら警察の人が言うの。『こらえてくれ、こらえてくれ!』って」

 そして、もう一枚、見せられたのが、白髪だけが残った茶色い頭蓋骨の写真だった。遺骨には、わずかな皮膚さえ、ついていなかった。

「母は白髪が多かったから、間違いないと思った。でも、いくら言っても、その場で会わせてもらえないから、『すぐに連れて帰ります』って言ったの。お葬式をすれば、母に触れられる、やっと会えると思って」

 あけみさんが翌朝一番に引き取りに行くと、母親はすでに棺の中に入っていた。棺の顔の部分には四角い窓があり、透明なプラスチック板がはめ込まれていた。プラスチックの窓越しに見える顔には、ピンクの布が巻かれていた。

「棺が開けられない状態だったから、母親の体に触れなかった。それで気づいたんだけど、たぶん、首から下はなかったのよ。だから、警察の人は、気づかって直接、見せなかったんだと思う。棺に入ってからも、きれいな布で巻いて、ショックを受けないように隠してくれたんだよね。でも悔しかったよ。結局、母に触れられないまま、火葬になっちゃったから」

 それから3カ月たった秋の彼岸も近い9月上旬、あけみさんはヤツ子さんと夢の中で再会した。それが冒頭の夢だ。

 遺体が見つかったとき、激しい剣幕で警察官に文句を言ったことをヤツ子さんが気にして、夢に出て来てくれたのだろう。遺体に触れることができなかった悔しさを「母が夢の中で慰めてくれた」とあけみさんは話す。

「いつまでもくよくよしてんな。いつも一緒にいるからって言いに来てくれたのかもしれないね」

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