欧州各国でも近年、この問題が注目され、イタリアやイギリス、オランダ、スウェーデンなどからも講演依頼が来るようになりました。イタリアは3年程前から大手メディアでもひきこもりが取り上げられるようになりました。特に北部では日本のように家族制度が強いので、ニートがひきこもり化する傾向は高いかもしれません。個人主義の強い国にひきこもりがいないというわけではありませんが、ドイツではそこまで広がりがないように感じています。イギリスでは、2018年に政府が「孤独問題担当国務大臣」という役職を設けました。

 貧困や同調圧力、社会からの孤立など、あらゆる国や地域で人々が抱えている歪のようなものが、ひきこもりという形で現れています。彼らの声に耳を傾けると、社会の課題も見えてくるのです。

■うつ病などの精神疾患と誤診も

 訪問診療への関与や医師への助言のほか、各国でひきこもりという概念を伝えるのも私の仕事の一つです。フランス国内での市民講座を開くと、100人以上が詰めかけ、質疑応答が2時間続くということもありました。街中でふと「甥がひきこもり状態だ」という話が耳に入ったり、カフェでスタッフの会話を聞いて「息子がひきこもりなんです」と相談を受けることがあります。それほど注目され、「ひきこもり」という言葉が定着していると感じます。

 しかし、誤ってうつ病や統合失調症などと診断され、抗うつ薬を処方されたり緊急入院させられたりするケースがまだまだあります。

 例えば、ひきこもり始めた最初の1~2年は、無理やり外に引っ張り出そうとした親を殴るなど、家庭内暴力が起きることがよくありますが、精神病による一過性の錯乱と判断されて緊急入院になるケースなどがあります。ひきこもりの場合は、薬は効きませんし、退院させてひきこもっている現状を認めてあげれば暴力自体は減ります。

 長期的にひきこもっている場合、フランスでは医療との関わりを続ければ最低限の生活を続けることができる障害者年金を受取ることができるようになりつつあるので、その手続きがなされることもありますし、本人が望めば社会に参加する道をみつける手伝いをしています。

次のページ 10年ひきこもる男性が外出を増やしたきっかけ