第3子を妊娠中、保育園に通う第2子の体調が悪くても、細かく病状を説明して懇願しないと、法で認められているはずの看護休暇を取らせてもらえない。高熱でも出ない限りはいったん保育園に預け、保育園から子どもの体調が悪いとお迎え要請の電話を学校にしてくれたほうが子どもの看護をしやすいという状況だ。保育園からの電話を取り次ぐことの多い副校長は授業中、「お子さん、お熱ですって」というだけで、香織さんが抜けた後の授業をどうするか助けてくれるわけではなかった。
そもそも、この小学校で勤務が始まった初日、「ここは、子どもがいる人のくる場所じゃない」と上司からマタハラ発言があった。クラスで何かあればすべて担任の責任。他の教員とチームで解決、協力し合おうという雰囲気はなかった。働いている保護者に連絡をとるため、夜まで残業しながら電話をかける教員が多いが、香織さんには保育園のお迎えがある。やむなく、自宅から保護者に連絡をとるが、子どもが夕飯を食べているすぐ隣で、学校であったトラブルについて保護者に平謝り。そんな時に限って子どもが「ママ、ママ」と話しかけてきたり、ご飯をこぼしたり。きょうだい喧嘩が始まる。ついつい「静かにしなさい!」ときつくなると、子どもが泣いてしまい、収拾がつかなくなる。
仕事を持ち帰り、子どもに夕飯を食べさせ、風呂に入れ、寝かしつけたらあっという間に夜9時を回る。ここでも、焦っている時に限って子どもはなかなか寝ない。イライラすると、余計に子どもが眠れなくなり、どんどん仕事をする時間が遅くなる。土曜も子どもを保育園に預けて仕事をすると、子どもが疲れて熱を出して出勤できず仕事が溜まる、という完全な悪循環に陥った。香織さんの元気のない様子を心配した教員は悪気なく「田舎に帰って実家に助けてもらって教員を続けたら」とアドバイスするが、帰ったところで非正規の採用しかない。
校長は毎日授業を監視して回り、気に入らない教員には「授業案」を出すよう求めるパワハラ気質があった。通知表も校長がすべてチェック。所見欄の記入を2~3回ダメ出しすることは珍しくない。書類作成のやり直しで土日に出勤することが常態化。個人情報保護の関係で、児童の名前が入っているような書類は持ち帰ることができない。平日の夜に残業できない分、香織さんは土日に学校に行って仕事をせざるを得なかった。