ただね、そうして自分の力強さをことさらにアピールするのと同時に、「俺は元横綱だ」っていう自負心だけで、技術的な部分のコンプレックスをご破算にしていた部分があった。それでみんなと対等になったつもりでいたけれど、プロレスはそれでごまかせるような甘い世界じゃない。どうしてもファンや記者の自分への当たりはきつくなるし、自分が当初想定していたとおりにはいかなくなって。ギャップに悩むうちに疑心暗鬼が強くなり、孤独になってしまった。

 俺はやっぱり彼には成功してほしかったから、「横綱、こうしたほうがいいよ」だとか助言はしたけれど、「元前頭の力士の言うことなんて」くらいにしか捉えてもらえなかったと思う。俺の場合は相撲部屋に入門したときに、大横綱の大鵬さんが、大関止まりの親方に対して本当に従順だった姿を見ていたし、そこで師弟関係を学べたことが大きかったんだけどね。横綱・双羽黒を常に背負っているのは悪いことではないけれど……やっぱりそのプライドを最後まで捨てきれなかった。「素直になる」ということは簡単そうで、とても大変なこと。だから、できれば今の力士たちが相撲を廃業したら、一般社会のなかで名を成すことにもチャレンジしてほしいかな。レスラーに転身して成功した人は、俺の知っている限りでも数えるほどしかいないからね。

 話を戻すけれど、俺にとっていちばんうれしかったギフトの思い出といえば、全日本を辞めてSWSに移るときに、女房から贈られたベンツの560sec。当時の最高級クラスだね。これは本当に感激したし大切に乗っていた。女房はそれと同じくらいの時期にロレックスも贈ってくれたんだけど、実は馬場さんが愛用していたモデルと同じなんだよ。馬場さんがフォーマルな場でしか着けないロレックスを、俺は普段使いしていたから。ちょうど全日本を辞めたタイミングでもあったし、馬場さんに勝ったというと大げさだけど、どこか肩を並べられたような気になってさ。

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