ほかに驚いたことといえば、全日本プロレス入団後の結婚式。贈り物もたくさんもらったけれど、いろいろあって数百万円の足が出ちゃったんだよね。そのときに馬場さんから、「天龍、結婚式で足が出た分は、次のシリーズの給料から完済するまで天引きするからな」って言われたんだよ(笑)。その後本当にきっちり引かれてさ。「やっぱり馬場さんは経営者なんだな」って実感したと同時に、「プロレス団体には、一切猶予がないんだな」ということも、身をもって感じた出来事だったな。
そうだ、輪島さんから聞いた話だけど、ハワイ修行に向かう飛行機で、馬場さんがファーストクラスに乗っているから、気をきかせてビジネスクラスに乗ったんだって。でも、ちょうど横綱・輪島を知っている社長たちが同乗していたみたいで。「なんで横綱がここにいるの? 俺がお金を払うからグレードアップしなよ」って、社長さんたちに押し切られて席を換えたら、馬場さんは案の定いい顔してなかったらしいよ(笑)。
そんな輪島さんからも、一度だけプレゼントをもらったことがあるな。彼が全日本に入団したばかりで、娘が5歳くらいのときだね。「天龍ちゃんは、娘さんがいるんだよね」って、輪島さんから本当の高級メロンが届いたんだよ。それを娘が食べて感動したようで、しばらく輪島さんのことを、「メロンのおじさん」って呼んでリスペクトしてた(笑)。輪島さんは横綱まで登り詰めた人だし、人との付き合い方というものをわきまえていたよね。
横綱といえば、今年残念ながら亡くなった北尾についても触れておこうか。幸せな家庭を築いているだろうと思っていたから、訃報を聞いたときはショックだったよ。今でも思うのは、彼は横綱・双羽黒という肩書や名誉を終生捨てきれなかったんだね。フラットな状態でプロレスに臨めなかったことが、挫折を招く結果になってしまった。でもね、練習でベンチプレスをやると、みんなが60キロで苦労するなか、あいつは80キロくらいを涼しい顔して上げるんだよ。それくらい体力やパワーは圧倒的にずば抜けていた。