いのうえひでのり演出、古田新太主演の『ロッキーホラーショー』。12月9日に神奈川芸術劇場で幕を開けたこの公演が、この2月22日、東京サンシャイン劇場で幕を下ろしました。
神奈川、福岡、大阪、東京と二ヶ月半、長い公演でした。
僕は結局、最初の神奈川公演しか観られなかったのですが、大千秋楽を終えた古田は、劇団公演とはひと味違う満足感を得たようだと聞きました。
自分たちが憧れていた作品を、自分たちの手で送り出す。そのことになにがしかの感慨があったのかもしれません。
いのうえも、原作者のリチャード・オブライエンと会う機会もあり、初めて日本版のCDを発売する許可をもらえたのですから、今回の日本版公演のクオリティを認められたと考えても間違いはないと思います。
いろいろな意味で、感無量といったところではないでしょうか。
若い頃から憧れたと言えば、いのうえのジューダス・プリースト好きもそうでした。
ジューダス・プリーストといえばヘヴィメタルの代表的バンド。
彼と初めて会った10代の頃から大好きで、よく聞かされていました。
初期の新感線、いのうえの舞台作りは、彼らのステージングに大いに影響されていました。
そのジューダス、一時期脱退していたボーカルのロブ・ハルフォードが復帰して最後のジャパンツアー中です。
しかもいのうえが会う機会が出来たとのこと。
彼らのアルバムにコメントを寄せた縁もあり、東京公演の際に会えるのだそうです。
10代から憧れていたバンドに本当に会えるとは。その話を聞いて僕も本当に嬉しかった。僕がこれだけ嬉しいのだから、いのうえ本人は相当なものでしょう。
30になるかならないかの頃、いのうえとよく語っていたのが「新橋演舞場で自分たちの芝居をかけたい」という夢でした。
それよりも、もっとかなうことはないだろうという気持ちで「ジューダス・プリーストをバックバンドにしてロックオペラをやる」ということも言ってました。
初めて新橋演舞場で『阿修羅城の瞳』がうてたときも本当に嬉しかったのですが、ロブがボーカルのジューダス・プリーストに今、生で会えるというのは難度という意味では相当なものではないでしょうか。ロブは一時期脱退していたわけですし。
残念ながら、ジューダスバックのロックオペラはかないそうにないですが、それでも、充分でしょう。
新感線の製作のS女史とは「今年、いのうえの夢があまりにもかないすぎてるから気をつけようね。このまま真っ白な灰になるかもしれない」と冗談混じりで言ってます。
一昨年から去年にかけては大変なことも結構あったので、今年は彼にとってご褒美な年かもしれません。
ふりかえって、じゃあ自分はどうだろうと考えてみました。
若い頃から憧れてて、今、会って猛烈に嬉しい人っているのかな。
これがあんまり思い当たらないのです。
もちろん会えれば嬉しい人、話を伺ってみたい人はたくさんいます。でも、「ああ、憧れの人に会えるぞ」みたいな気持ちはあんまりない。
作家で言えば、尊敬している山田風太郎・隆慶一郎という巨人のお二人はなくなってますしね。ご存命中にお目にかかりたかったかというと、まあ、それほどでもない。
性格なのでしょうか。若い頃から割とそうだった。自分でも少し寂しいなとは思うのですが。
一緒に仕事をしてみたい人はたくさんいますけどね。
さて、『シレンとラギ』です。
公式サイトも立ち上がり、稽古に向けて準備が始まっています。
脚本も直しを終えて手を離れました。
ここから先は稽古が始まってから、改めて調整することになるでしょう。
いのうえ歌舞伎の新作としては『蛮幽鬼』以来ですので、二年半ぶり。
大枠としては、二つの対立する国を舞台にしたドラマティックな物語ですが、今までとは違う試みをしているつもりです。
ご期待ください。