記者が趣味の夜景撮影のために所持していた年間パスポートを使い、みんなで六本木ヒルズの展望台へ。タカさんにカメラを渡し、改めて撮影をレクチャーしてみる。「First, zoom lens, telescope.」と言うと、タカさんは「Telescope, what?」。まず「カメラを望遠にして」がうまく通じない。「telescope」は我ながらよくそんな語彙が出てきたものだと思ったが、後日調べたところこれは望遠鏡を指す名詞で、望遠は正しくは「telephoto」だった。

 また「被写体と背景の間に距離を取る」という説明のために「make object between background」などと言ってみたのだが、おかしな文法のせいか伝わらない。だんだん焦ってきた記者はカメラの前に躍り出て腕を開き、「Distance!」とジェスチャーを試みた。それがなんとか伝わったようで、写真を撮ることができた。言葉を操る仕事だが、言葉だけで伝えるのは無理な局面もある。そう開き直った瞬間だった。

●本場アメリカの空気にのまれ 徐々に舌もなめらかに

 六本木ヒルズでのミッションを終え、アメリカ・カリフォルニアスタイルのピザレストラン「ピザカヤ」へ。お店への道中、アレックスくんがハイチュウを1 個くれた。「Thank you.」とお礼を言いつつ、なにかもう一言言えないか?と考えるがなにも出てこず、やるせない。

 メニューの選定は記者に一任された。「肉かシーフードか」「辛いのが好きか」などの質問をみんなにして、種類を絞り込む作戦で注文することにした。やってきたピザは、辛くないものを選んだはずだったのだが、ペパロニが多く含まれていた。しまった、注文のときに念のために聞いておくべきだった……反省していると、お店から辛いものの食べられないアレックスくんのために、唐辛子のないピザをサービスしてくれた。

 一方、激辛好きの記者は、アイシャさんが「これは本場の味」と評するバッファローウィングをひたすら食べていた。辛さに顔をしかめるタカさんに対し、「Would you like something to drink?」と飛行機の国際線で聞くフレーズが自然と出てくる。本場の料理に刺激され、次第に頭もアメリカナイズされたようだった。

 おなかもいっぱいになってきたところで店主から「どうやってこの店を見つけたの?」と質問された。回答するのに続け「スタッフみんなが外国人なので『ここは本当に日本?』と思いましたよ」と一言つけくわえるなど、記者の舌も快調になめらかになっていく。チキンを頬張り、親指を立てて「Very delicious!」。ただのジンジャーエールでほろ酔いになれる雰囲気が、そこにはあった。

 食後、英語で話せたことに高揚した記者に、アレックスくんがまたハイチュウを1 粒くれた。「Thank you.」とお礼を言い、今度はこうつけくわえた。「You are a kind boy!」

※「AERA English 2020 Autumn & Winter」から抜粋

(文/白石圭)