双方の言い分を言わせて、自分なりの反省を言わせて、握手するという「学校版」問題解決法は幼児向け通信教育のキャラクター「しまじろう」のビデオにも登場します。そこでも、自分が相手に嫌なことをしてしまったら、相手に「ごめんね」と言い、言われたほうは、「いいよ」と答える、というパターンを教えるものがあります。
そのようなやり方は9割以上の状況では適切・妥当な対応だと思いますが、わずかな例外があります。
許す気持ちになっていないときです。そして、想像以上の歪を生んでしまう可能性もあるのです。私がカウンセリングを担当した中から、一組のご夫婦のケースを紹介します。
ずっと気分がすぐれないと言って、おいでになったのは綾乃さん(仮名、30代、派遣社員)とその夫守男さん(仮名、30代、団体事務)でした。お話をお伺いすると、守男さんは真面目一筋のような方なのですが、半年ほど前、綾乃さん以外の女性に気をとられてしまいました。いわゆる不貞関係には至っていなくて、LINEで楽しくやり取りをする程度だったそうですが、純朴な守男さんのやることはだだ漏れで、ほどなく発覚してしまいました。守男さんは多少の下心もあったことを白状し、平身低頭謝りました。綾乃さんは、男女の関係も無かったことだし誠意をもって謝ってくれたので、何日かの話し合いののち「納得して」許したそうです。2人ともそれで問題が解決したと信じていました。
しかし、思えばそれからしばらくして、綾乃さんは体調が悪くなり、最近では会社も休みがちになり家事もろくにできないぐらい弱ってしまったそうです。
お話を聞いてみると、綾乃さんは、最初はなんとなく調子が悪いな、更年期かな、程度に思っていたのですが、だんだんひどくなり、更年期の鬱かな、病院に行かないといけないかな、と思いつつ一日伸ばしにしているうちに、
「守男さんが、他の女性に意識を向けたんだ」
という考えが取りつかれたように出てくるようになり、そのたびに
「何もなかったんだし、彼は謝ってくれたんだから」
と考えて、その考えを押さえてきたそうです。