劇団☆新感線の三十周年興行第二弾『鋼鉄番長』が、始まりました。
 正確には『2010劇団☆新感線三十周年興行【秋】豊年満作チャンピオンまつり 鋼鉄番長』。
 長いよ、もう。

 去年の秋の『蛮幽鬼』は、いのうえ歌舞伎として人間ドラマを主眼に置いた復讐劇。春の『薔薇とサムライ』が生バンドを入れ歌をふんだんに盛り込んだ音楽活劇、そして今回の『鋼鉄番長』は、主宰いのうえひでのり作演出、自ら「中味はない。ただ笑いがあるだけ」と豪語するネタもの。
 奇しくも、ではなく、プロデューサーの当然の意図なのでしょうが、この三本で、新感線の大きな三本柱である"いのうえ歌舞伎""Rシリーズ""ネタもの"がわかるわけです。
 三十周年にふさわしいラインナップと言えるでしょう。

 その掉尾を飾る『鋼鉄番長』。
 いや、いのうえや古田などが機会ある度に「中味はない」と言ってましたが、その言葉通り。
 変な人達が続々と現れて変なことをしては去っていく。
 キャッチフレーズが"小六魂"。
 中二病よりまだ幼い。
 小学校六年生男子が喜びそうなことをやる。付け加えるならば、昭和の小学校六年生。 テレビだとドリフ。漫画だと永井豪。それも『デビルマン』や『マジンガーZ』じゃなくて『ハレンチ学園』とか『あばしり一家』。
 スカートめくりとか、給食の早食いとか、犬のウンコ踏んでエンガチョとか、そういうことで頭がいっぱいな子供の心で楽しんで欲しい。
 それを、アラフォー世代の、中にはもはや50代に近い役者達が、力の限り演じる。体力の続く限りボケる。声が出る限りツッコむ。
 やっていることは心底くだらないが、やっている人間達は心底真剣にやる。
 牛乳の早飲み競争の先に授業中のトイレ往復が待っていようと構いはしない。とりあえず今は、飲めるだけ飲む。5分で10本飲んで勇者と讃えられる。その名誉のために身体を張る小学六年生の昼休み。
 それが"小六魂"。
 
 まあ、確かに中味はないです。最近のドラマ志向の新感線を観てファンになった方達は唖然とするでしょう。
 でも、三十周年興行の〆を飾っているように、劇団としてはむしろこれが本道。いまじゃ三年に一本くらいしかやらなくなったけど、このラインこそ、自分達がやってきたベースなのです。
 くだらないことをどれだけ真剣にやれるか。その精神を忘れると、新感線は新感線じゃなくなってしまう気がします。

 そして、『天元突破グレンラガン』でご一緒した今石洋之さんが監督した新作アニメが10月からスタートしました。
 タイトルは『Panty&Stocking with Garterbelt』。
 こちらも長いタイトルです。通称『パンスト』。
 僕以外の『グレンラガン』スタッフが総結集。
 中味はと言うと、人間の欲望が具現化したゴーストという怪物を退治するために遣わされた二人の天使パンティ&ストッキング。だが彼女たちは素行不良の落ちこぼれ。むしろ自分の欲望に忠実なのは彼女たちの方なので、ただのゴーストハントには終わらない。スラプスティックでシュールでラジカル。そして下品。
 今石色全開のスラプスティックアニメなのです。
 一回目を観たのですが、初回からとばすとばす。主人公のパンティは、男と見ればモーテルに引っ張り込むセックス好き。
 しかも最初に出て来るのが、トイレの配水管に詰まって死んだ清掃員の怨念からできたウンコのゴーストですからね。最初から下ネタ全開です。
 これは監督の決意表明と見ていい。
「これから全力でくだらないことをやります」という。
 内容はくだらないが、アニメ表現は素晴らしい。
 絵柄は、海外の漫画風にデフォルメされてますが、とにかくアップテンポでよく動く。
 副監督の大塚雅彦さん(『グレンラガン』でも副監督でした)が、「作画は『グレンラガン』より大変かもしれない」と言ってましたが、確かにそうかもしれない。
 この密度で13話やりきるならばもの凄いなと思います。
 セックス・スピード・バイオレンス。それをデフォルメされた海外アニメ風な絵柄でやってる。
『鋼鉄番長』が昭和の"小六魂"ならば、こちらはアメリカの"小六魂"とでも言えばいいでしょうか。
『グレンラガン』ファンには反撥を喰らうかもしれませんが、これもまた今石スピリット全開の作品なのです。

 しかし、僕が信頼する演出家が、自分が抜けた作品だとどっちも全力で"小六魂"全開の作品を作ってるっていうのは、どうとらえればいいんでしょうね。
 まあ、大人げないことにかけては僕も人後に落ちないので、お互い様かな。

劇団☆新感線『鋼鉄番長』

20101014_1.jpg(C)相澤心也

公式サイト

アニメ『Panty&Stocking with Garterbelt』

20101014_2.jpg(C)2010 GAINAX/GEEKS

公式サイト