その間も、メインの機関車として先頭に立ってきたのはC57-1であった。そのかたわら、予備機として、あるいはイベントなどでの補機としてC58形1号機(1984年まで)やC56形160号機(2018年まで)が使用されることもあった。

 編成の前と後ろに機関車が付くプッシュプル運転が行われたり、先頭に2機が連なって力強くけん引する重連であったりと、その時によって異なる形で趣向を凝らしたイベントが行われてきた。

 2機でけん引する時は、汽笛の音にそれぞれの個性を感じられたのも面白かった。音の大きさだけでなく音階も異なるので、汽笛が奏でるハーモニーを楽しむのも、こうしたイベント運転の見どころの一つである。

■SLを末永く残す英断、客車の新製投入

 2017年9月に大きな転機が訪れた。「SLやまぐち号」の客車が置き換えられることになり、35系客車が新製投入されたのだ。『時刻表』には以前から「レトロ客車」と書かれており、違いがあるようには見えないのだが、この新しい客車は戦前の旧型客車を再現するよう新造されたのである。

「最新技術で快適な旧型車両を再現」をテーマに新製された客車は『これからもまだまだ「SLやまぐち号」が走り続けます!』という、はっきりとしたメッセージを示すものになった。

 2018年に発表された第61回鉄道友の会ブルーリボン賞においても、「開発コンセプトを高いレベルで具現化した点や蒸気機関車列車を永続的に運行するための一つの方向性を示した」ということが高い評価につながり、「TRAIN SUITE四季島」や「TWILIGHT EXPRESS瑞風」といった強豪を押さえての受賞となった。

 外観や内装の目に入る部分はレトロだが、温水洗浄便座付きトイレやバリアフリーに関わる部分、そして100V電源のコンセントなどは、現代の列車に求められる装備・設備が盛り込まれた。

 客車を新製しても、肝心の蒸気機関車が故障して走れなくなったら「SLやまぐち号」の歴史は途絶えてしまう。そこで、より長く続けることを決意表明するかのように、もう1両のSLが整備された。それがD51形200号機(以下、D51-200)である。

 この機関車は京都の梅小路蒸気機関車館(現・京都鉄道博物館)で構内運転を行っていた動態保存機ではあったが、本線走行をするには大きなハードルが立ちはだかっていた。やはり構内を低速で運転するのと、現役時代と同等の性能を発揮するのでは全く条件が異なるからだ。

次のページ
いつまでも残してほしい偉大なる産業遺産