これが不動産業界の「常識」なのだろうか。そう考えさせられる一幕が先週21日、さいたま市にある国土交通省関東地方整備局の会議室で繰り広げられた。アパート投資をする顧客の預金残高を水増しした資料(ネットバンキング画面のコピーなど)を偽造して銀行に出し、融資を不正に引き出した不動産会社が、行政処分を下そうとする国交省の判断に、猛然とかみついたのだ。
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コトの始まりから振り返ろう。
国交省が近く行政処分を下すのは、東証1部上場で新築アパートの企画販売を手がける不動産会社TATERU(タテル、東京)。2006年の設立からわずか9年で東証マザーズに上場、翌年には東証1部に市場を変更した。オシャレ感を強調したアパート販売で業績は右肩上がりだった。
サッカー元日本代表の本田圭佑選手をCMに起用したことも話題になった。
投資勧誘で客に配られたDVDでは、本田選手がこう語りかけた。
「今後いわゆるサラリーマンの人がアパートを経営するとか、違うものに投資するっていうことは、どんどん広がっていきます。そのうち一つのことにしか集中しないっていうような人のほうが少数派になると思っています。そういう時代は必ず来ます」
「まわりの目をまず気にしないことですよね。投資するのが悪みたいなものは、必ず今後変わっていくんで。しっかりここで自分の判断で、一歩踏み出す勇気、必ず必要ですよね」
そんな本田選手の言葉と、東証1部の「信用」にも後押しされ、投資を決断した人も確かにいた。
だが、勢いにのる不動産会社には「ウラの顔」があった。
昨年8月末、日本経済新聞などが、銀行融資で書類を改ざんする不正事例がタテルでもある、と報じた。
不動産業者が書類を偽造しまくる実態は昨年2月以降、スルガ銀行(静岡県沼津市)の不正融資をきっかけに明るみに出た。そこで登場するのは小さな不動産業者が中心だったが、約500人の社員を抱える東証1部の上場企業でも不正が行われていた衝撃は大きい。