また、少し視点を変えてみたいと思います。もしかすると、ご相談のケースでは、旦那さまにAさんからのSOSが思うように伝わっていないこともご負担になっているのかもしれません。

 悩みを伝えようとしてもうまく伝わらないとき、少なくとも以下の四つの対応策が考えられるように思います。(1)言い方を変える、(2)言う状況を変える、(3)言う人(発信者)を変える、(4)言う相手(受信者)を変える。

 Aさんのご相談でいうと、 (1)については、具体的に何をしてほしいか伝えてみる。例えば「自閉症スペクトラム障害の可能性があると言われたから、一緒に受診してほしい」と伝えてみるのもよいかもしれません。(2)については、Aさんが悩んでいるお子様の状況を旦那さまにも体験してもらって、その場で相談してみる。(3)については、担当医師に相談して医師から旦那さまへ伝えてもらう。(4)については、旦那さまが難しければ祖父母に相談してみる……といった感じでしょうか。

(4)は、少し困難さもあるかもしれませんが、(1)と(2)については、試してみることもできるように思います。(3)については、私も主治医としてよく経験しますので、一助が必要な場合は一度担当医師にご相談なさってみてはいかがでしょうか。

「自分がどうにかしないと」
「しっかりしなきゃ」
「みんなに負担をかけたくない」

 どれもすてきな考えだと思います。しかし、このような気持ちを強くお持ちになっている方のほうが、対処しきれなくなる状態まで陥ってしまうことが多いように思います。

 Aさんがそうであるかはわかりません。でも、「気が滅入ってしまいそう」と話される先に限界はあると思います。ADHD(注意欠陥・多動性障害)のお子様を育てられているお母様からのご相談でも触れましたが、やはり重要なことは、ご自身が大切に思っているものを大切にできなくなる前に、そばにある支援へつながることだと思います。

 周囲の理解や支援が得られれば、ご両親にも余裕が生まれます。その余裕は決して甘えなのではなく、お子様にとっても、パートナー同士や周囲の支援者、ご自身にとっても、良好な精神を育み保つためには必要なものだと思います。

 今回のコラムを寄稿することで、Aさんはもとより同じような境遇におられる方々に届き、心の健康を害するような状況にならないことを願っています。しかし、心に余裕がなくなってしまうようなことがあれば、そのときはわれわれ医療に相談することを検討していただければと思います。

 今回、Aさんからのご相談を受けて、パートナーや家族、友人など、信頼できる方々と日頃から生活の中でコミュニケーションを重ねていくことの大切さを改めて感じました。

注)ご両親に伝えるべきかについては、小児科医師とは関わり方が少し異なるのかもしれませんので(小さい頃から診てもらっているということで勝手に小児科と推測しています)、その点にも留意して受け止めていただけたらと思います。

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大石賢吾

大石賢吾

大石賢吾(おおいし・けんご)/1982年生まれ。長崎県出身。医師・医学博士。カリフォルニア大学分子生物学卒業・千葉大学医学部卒業を経て、現在千葉大学精神神経科特任助教・同大学病院産業医。学会の委員会等で活躍する一方、地域のクリニックでも診療に従事。患者が抱える問題によって家族も困っているケースを多く経験。とくに注目度の高い「認知症」「発達障害」を中心に、相談に答える形でコラムを執筆中。趣味はラグビー。Twitterは@OishiKengo

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