まさかの事件を起こしてしまった橘高淳審判 (c)朝日新聞社
まさかの事件を起こしてしまった橘高淳審判 (c)朝日新聞社
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 今シーズンが開幕してあっという間に時間がたち、早くも交流戦に突入しているが、懐かしいプロ野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、80~90年代の“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「審判にご注意を!?」だ。

「巨人が使わないならウチに欲しい」他球団が高評価する意外な伏兵とは?

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 プレー中に打球や暴投が審判を直撃する「痛い!」アクシデントは時々見られるが、いつも当てられている側の審判が“当てた側”になる珍事が起きたのが、1981年9月14日のヤクルトvs巨人(後楽園)だ。

 この日まで未勝利の巨人の先発・新浦壽夫は、「勝ちたいという気持ちは捨てたよ」と立ち上がりから無心で投げつづける。

 これがハマりにハマり、5回まで被安打わずか1の快投。だが、1対0とリードした6回に、思わぬ落とし穴が待ち構えていた。

 先頭の青木実に投前内野安打を許し、角富士夫に四球を与えたあと、1死から大杉勝男の強い三ゴロをルーキー・原辰徳が痛恨のエラー。併殺でスリーアウトチェンジのはずが、一転1死満塁のピンチに……。そして、さらなる不運が襲ってきたのは、次打者・渡辺進がフルカウントから一塁スタンドにファウルを打ち上げた直後だった。

 平光清球審は、打球の行方を目で追いつづけていた新浦が正面を向き直ったのを確認すると、マウンドに向かって、ニューボールを投げた。

 ところが、ボールが手から離れた瞬間、新浦は下を向いてしまったため、気がつかない。ボールは新浦の左こめかみの上を「ゴツン!」と直撃した。

「しまった! と思ったが、遅かった。私のミスです」。慌てた平光球審はマウンドに駆け寄り、うずくまっている新浦に「大丈夫か? 悪かったな」と謝罪したが、悪いときには悪いことが重なるもの。直後、新浦は、渡辺に左前2点タイムリーを浴び、逆転を許してしまう。

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