エアタービンなど歯を削る機械は患者の口の中に入ります。他人の唾液(だえき)や血液が付着した機械が自分の口の中に入るのは嫌ですよね? ところが、歯科ではこうした機械を使いまわしているといううわさが……。実際のところはどうなのでしょうか? 衛生管理をしているとして、その方法は? 著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか? 聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中の歯周病専門医、若林健史歯科医師に疑問をぶつけてみました。
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「ドリルの使い回し」というとなんだか、悪いイメージがありますね。これはある意味では正しく、ある意味では間違っています。
まず、歯を削る機械はハンドピースといわれる持ち手と歯に直接あたるドリル(バー)の部分に分割されています。ハンドピースにドリルを取り付けて使います。
このドリルは刃の部分がもろくなり、削れなくなったら交換します。人工の歯であるジルコニアをたくさん削ったりする場合は1回でダメになることもありますが、一般的には一定数、使います。つまり、使い回しをしています。
ただし、不衛生な状態のまま、次の患者さんに使用することは100%ありません。歯科医院では肝炎ウイルスやエイズを引き起こす原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)など、血液や唾液を介して感染する可能性のある病原菌の対処が求められているからです。
そのためにドリルをはじめ、歯の裏側を診る歯科用ミラー(鏡)やピンセットなど、口の中に入れる器具は衛生管理をすることが決められています。
ただし、どのくらい徹底してやっているかについては、歯科医院によって差があるのが実態です。
日本歯科医学会は衛生管理についての指針を出しており、推奨されるやり方は使用後に洗浄液や消毒液で器具に付着した唾液や血液を洗い流した後に、「オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)」に入れて滅菌をすることです。約120度の高温で病原菌を死滅させる装置ですが、どのようなものか詳しく知りたい人はネットなどで見てみるといいでしょう。
ちなみに「消毒」は、病原菌やウイルスを死滅または除去し、害のない程度まで減らしたり、あるいは感染力を失わせるなどして、毒性を無力化させること。
「滅菌」は、「滅」という字が表すように、すべての病原菌やウイルスを死滅させ、除去するので、消毒よりもその効果は高いのです。