歯を失うほど進行している歯周病は中年や高齢の人に多いはず。ところが、そんな歯周病に20代でかかるケースがあると聞きました。本当のところはどうなのでしょうか? かかりやすい人はいるのでしょうか? テレビなどでおなじみの歯周病専門医、若林健史歯科医師に疑問をぶつけてみました。
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20代で歯を失うようなひどい歯周病になってしまう患者さんはいます。通常の歯周病ではなく、10~30代で発症し、急激に進行するタイプの歯周病があるのです。
かつては、重度進行性歯周炎、若年性歯周炎などと呼ばれていたもので、近年は「侵襲性(しんしゅうせい)歯周炎」といわれています(現在、学会が歯周病の分類を変えている最中ですので、また、近いうちに名称などが変わる可能性がありますが、ここでは侵襲性歯周炎と呼ぶことにします)。発症率は歯周病全体の0.05~0.1%といわれています。
これまでお話ししてきたように、歯周病のはじまりは歯肉炎で、歯ぐきがちょっと炎症を起こす程度です。これを放置しておくと徐々に歯周病菌が歯ぐきの中に侵入し、本格的な歯周病である歯周炎となっていきます。
通常、歯肉炎から歯周炎となり、歯が抜けるまでには、15~30年ほどかかるとされています。つまり、じわじわと慢性的に進行するのですが、侵襲性歯周炎は発症後、2~10年ほどで急速に進行します。
また、侵襲性歯周炎は通常の歯周病とは違い、歯の表面のプラークは少なく、歯肉に強い炎症も見当たらないことが多いのです。
このため歯周病であることに全く、気づかないまま、ある日、急に歯がぐらついてきて初めて歯科医院を受診するケースも珍しくありません。
さらに、歯科でおこなう通常の歯周病の治療(プラークや歯石を専用の器具で取り除き、それでもよくならない場合は外科手術で歯ぐきを開けて歯石を取り除く)だけでは、よくならないのです。当然、患者さんが頑張って歯を磨いていても、再発を繰り返すといったことが起こります。
現在はこの段階で、侵襲性歯周炎を疑いますが(後述)、病気が知られていなかった時代は、大変だったと思います。20代でほとんどの歯を失ってしまうような患者さんも少なからず、いたことでしょう。