若林健史(わかばやし・けんじ) 歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演
若林健史(わかばやし・けんじ) 歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演
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※写真はイメージです(写真/getty images)
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 歯医者の看板を見るだけでからだが震える……。歯科恐怖症の患者さんにとって、「全身麻酔で歯科治療ができれば……」と一度は考えたことがあるのではないでしょうか。実際に大学病院や一部の歯科医院ではおこなわれています。全身麻酔で本当に痛みなく、快適に受けられるのかどうか?麻酔のリスクなどについて、テレビなどでおなじみの歯周病専門医、若林健史歯科医師に疑問をぶつけてみました。

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 全身麻酔下でおこなう歯科治療は限定された条件の患者さんに対して(後述)、実施されています。

 意識がなくなりますから、麻酔がかかっている間はどんな治療をしても痛くありませんし、恐怖も感じません。そうした意味では、快適に受けることができるといえるかもしれませんね。

 ただし、手術の経験がある方はわかると思うのですが、全身麻酔の前後は飲食ができません。また、自力で呼吸ができなくなるので人工呼吸をおこなうために、(医科では口からですが)鼻から喉を通して気管にチューブを通します。

 このため麻酔から覚めた後に鼻やのどの痛み、声のかすれ、鼻血が出ることがあります。吐き気や嘔吐、倦怠感や頭痛などが起こることもあります。これらの症状が起こったら快適とはいえません。また、全身麻酔を原因とした死亡率は近年、大きく低下し、1万~20万人に1人(日本歯科麻酔学会)とされていますが、ゼロではありません。

 このような事情もあり、全身麻酔下で歯科治療を受けるケースは手足などが動いてしまって、通常の歯科治療が難しい障害者の方や、暴れてしまう小さなお子さん、反対咬合(こうごう)(受け口)の矯正治療で顎の骨を切断する手術などに限られています。

 歯科恐怖症の患者さんには全身麻酔以外に、効果的な治療法が複数あります。

 まず、「麻酔の注射が怖い」というだけであれば、注射の技術で対処できます。麻酔の注射でトラウマになっている理由は、たいていの場合、注射針をいきなり歯ぐきに刺された、という経験です。近年は痛みのない方法が確立されており、歯ぐきに表面麻酔をしたり、粘膜に注射をしたりという方法で痛みをゼロにできます。

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子どもに使用される「鎮静法」