「私、洋服に限っては詳しいし、トレンドもわかってる。自分なりのセンスもあるのでたくさん商品があっても自分にあう一着を選べると思ってたんですよね」

 けれど選ぼうとすればするほど、何が決め手なのかよくわからなくなる。考えあぐねているうちに黒いワンピースを着たい夏シーズンは近づいてくる。もう一度しっかり考えて選ばなきゃと思って保存した情報を見返す、その間にもSNSには新しい洋服の情報がどんどん飛び込んでくる……そのうちに彼女の考えは全くまとまらなくなってしまった。

「結局、よくわからないまま夏が来て、去年着てたワンピースをまた着ちゃったんですよね」

 寂しそうに笑いながら彼女はそう言って、こう続けた。

「それから買物の楽しさがもう、よくわからないんです、わたし」

 自分の大好きな趣味であり、生活を充実できる手段だと思っていたファッション。しかしそのファッションをうまく選べなくなったことで、彼女の自分に対する自信は大きく下がり、生活を充実させてくれていた洋服にも以前より興味を持てなくなったという。

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 いかがだろうか。洋服にかぎらず、買おうと思ったのに選べない、そのうちに買う気がなくなる、そんな経験に覚えがある方も多いのではないだろうか。せっかく楽しいはずのショッピング。こだわりすぎて、商品選びが徒労に終わらないよう、ご用心。

山本泰士(やまもと・やすし)
2003年博報堂入社。マーケティングプランナーとして各種企画を担当。2015年より博報堂買物研究所で「欲求流去の時代」「ミレニアル家族の新・買物行動」などの買物意識・行動の未来予測を行う。『なぜ「それ」が買われるのか?』を執筆。