1996年に始まった『うたばん』でも似たような試みが行われていた。『HEY!HEY!HEY!』の舞台セットが派手で近未来的であるのに対して、『うたばん』のセットは日常的で温かみのある雰囲気が漂っていた。石橋と中居は不良っぽい先輩と後輩のような関係を保ちながら、アーティストとトークを展開した。特に、モーニング娘。をはじめとする若い女性アーティストが出演したときに見せる石橋のセクハラまがいのイジり芸は絶品だった。

 90年代後半から2000年代には『HEY!HEY!HEY!』と『うたばん』というそれぞれ毛色の違うトーク主体の音楽番組がゴールデンタイムで人気を博していた。この時代にはアーティストが単に音楽を聴かせるだけではなく、タレントとしても興味の対象になっていたのだ。

 現在では、インターネットの普及によってSNSなどのツールが発達して、アーティストが自分たちのありのままの姿をファンに直接見せるのが難しいことではなくなった。そのため、アーティストの素顔を売り物にするトーク主体の音楽番組は激減してしまった。

 現在の音楽番組には「多様化」「大型化」という2つの特徴がある。「多様化」とは、1組のアーティストを深く掘り下げる『SONGS』(NHK)、作り手にスポットを当てて音楽の魅力をさまざまな角度から分析していく『関ジャム完全燃SHOW』(テレビ朝日系)など、音楽番組の形式が幅広くなっているということだ。価値観が多様化して誰もが知るヒット曲が少ない時代だからこそ、音楽の楽しみ方を広げるような企画が求められているのだろう。

「大型化」とは、音楽特番の放送時間が年々長くなっているという現象だ。『音楽の日』(TBS系)をはじめとして、各局の音楽特番は4時間超えが当たり前になっていて、中には「13時間生放送」などもある。ネット配信で音楽を聴くこと自体は身近になったため、非日常体験としてのライブパフォーマンスを見せることがテレビの音楽番組の重要な役割になっている。時代のニーズに合わせてあり方を変えていく音楽番組は、これからも多くの人に必要とされる存在であり続けるだろう。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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