しかし、この時期を境にアップルの業績は低迷を始め、凋落へと向かいます。1つの見方は、最初は目覚ましい働きをしていたスカリーが途中から政界に関心を示すなど集中を切らして失速したという説ですが、ジョブズはスカリーの経営手法は「途中から」ではなく「最初から」間違っていたと見ています。ジョブズはこう評しています。

「問題は、急速な成長ではなく、価値観の変化だった」

 初期のアップルに成功をもたらしたのは「世界を変える」ほどの革新的な製品でした。ジョブズがつくったマッキントッシュの特徴は群を抜いた操作性の良さにあり、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)は長い間、独占状態にあり、高い価格設定にもかかわらず売れ続けていました。

 そのためスカリーは売上げの拡大や利益の増大を第一に経営を推し進めたわけですが、もしこの時期に利益をほどほどに抑えて、一方ですぐれた製品の開発に人や資源を投入していれば、アップルの販売台数はもっと伸びていたし、シェアも拡大できたというのがジョブズの見方です。こう振り返っています。

「原動力は製品であって利益じゃない。スカリーはこれをひっくり返して金儲けを目的にしてしまった。ほとんど違わないというくらいの小さな違いだけど、これがすべてを変えてしまうんだ。誰を雇うのか、誰を昇進させるのか、会議で何を話し合うのか、などをね」

 ジョブズは利益の大切さを否定しているわけではありません。かといって、利益第一になってしまうと、すぐれた製品をつくりたいと願うAプレーヤー(Aクラスの能力を持つ優秀な働き手)は会社を去り、すぐれた製品をつくり出す力は会社から失われてしまいます。企業にとって目に見えにくい価値観をいかに守り抜くかはとても大切なことなのです。

 アップルに復帰したジョブズが行ったのは、アップルを再び製品中心の会社へとつくり変えることでした。どこでもつくっているような平凡な製品ならアップルが手がける必要はありません。アップルがつくるべきは「世界を変える」ほどのすぐれた製品だけなのです。そのことをはっきりと宣言したのが「シンク・ディファレント」という宣言であり、CMでした。

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すぐれた製品をつくるために必要なのは…