メガネありの「獣になれないーー」で説明する。松田が演じるのは会計士・税理士の根元恒星という男だが、いきなりデザイナーの彼女(菊地凛子)に「結婚するの」と言われてフラれる。深刻な状況だ。同時に彼女は彼のクライアントで、仕事の話をするシーンとなる。で、仕事トークが終わったところで、彼女が「最後にしとく?」と言う。
で、ここからは、こんな会話。
ん?→しおさめ。記念に→なに記念?→うちら、相性よかったでしょ→相性よかった記念?→奥にベッドあるし→人妻とはやんないの→私でも?→既婚者相手はリスクが高い→石橋、叩くねー→叩く気にもなんないわ
ね、おしゃれで軽妙で、クスッと笑えるでしょ。と、こんなふうなシーンがあるのは、メガネをかけている時だけ。そしてこういう松田を私は、「ちょっと世間をなめてるような、なめてないようなテイスト」と名付け、密かに愛でている。
それは松田のテイストでなく、役柄のテイストではないかというご指摘もあろうと思うが、役柄を超えてのテイストだから、やはり松田のテイストだと思う。
「獣になれないーー」では「モテる、イケてる職業の男子」だが、「モテない」「イケてない」役でも、メガネの松田からはこのテイストが滲む。たとえば「まじめで弱気なお金持ちの坊ちゃん」役のドラマ「カルテット」でも「身体能力が超高い北海道大学農学部の万年助手」役の映画「探偵はBARにいる」でも、松田はこのテイストでバイオリンを弾き、ヤクザをバッタバッタ倒す。
だがメガネをかけない松田になると、どんなシーンでもこのテイストは一切出ない。どういうテイストが出るかというと、「本気一直線」だ。
たとえば2年前のドラマ「営業部長吉良奈津子」。タイトル通り、主役は吉良(松嶋菜々子)。松田はクリエイティブディレクター役で、すごくおしゃれではあるけれど、軽さは一切出さない。「仕事人」な感じで、吉良が危機に瀕すると必ず救う。