正文である英語版を見てみよう。

3. The United States and Japan will enter into negotiations, following the completion of necessary domestic procedures, for a United States-Japan [Trade Agreement on goods, as well as on other key areas including services,] that can produce early achievements.([ ]は筆者)※米ホワイトハウスのホームページより

 後半の部分が問題の個所だが、ここでは、「a United States-Japan Trade Agreement」と書いてあるので、協定は二つではなくて一つであることがわかる。そして、TradeとAgreementは大文字で書かれているので、アメリカ政府の日本語訳では「貿易協定」となっていて「物品貿易協定」とはなっていない。その後にgoodsという言葉が続くが、これは独立した位置づけにはなっておらず、as well asという接続句が示すとおり、後ろの「key areas including services」(サービスを含む他の重要な分野)と全く同じ並びの分野の一つに過ぎない。だから、アメリカ側の訳では、「物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定」という表現になっていて、「物品貿易協定」だとか「TAG」などと言う言葉が出て来る余地はないのだ。

 つまり、英語の正文によれば、日米が「TAG」という何か特別な新しい交渉に入るというのは明らかに間違っている。正しい理解は、物品とサービスなどを対象とする「貿易協定」の交渉が始まるということになる。つまり、これは、両国が物品・サービスなどを幅広く含む貿易協定、すなわち、実質的なFTA交渉を始めると約束したと読むのが普通の解釈だろう。

 この正文(英語)を読んだ海外メディアが、「FTA」交渉入りだと報じたのは、当然のことだ。

 それに対して、安倍晋三総理の発言、外務省の発表は、いずれも間違った内容を国民に伝えた。より強い言葉で言えば、「TAG」という言葉を捏造したと言っても良いだろう。

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なぜ外務省は英語版掲載を遅らせたのか