●どうしても「FTA」を認めたくない安倍総理の事情を忖度する外務省
ここまで読んで、おそらく、読者の皆さんは、一体どうして、「TAG」という言葉に日本政府はそんなにこだわるのだろうと不思議に思うかもしれない。
そこには、「FTA」という言葉に日本国内の農業関係者が強く反発するという事情が大きく影響したと考えられる。「FTA」というと、昔から、日本の農産品について非常に大きな自由化や関税引き下げ措置が要求される、と、多くの農業関係者が信じている。最近では、米韓FTAで韓国の農家が大きな痛手を被ったというイメージもあり、もし、FTA交渉開始を飲んだことを認めれば、日本の敗北だと言われ、自民党にとって、来年の統一地方選や参議院選で不利な材料になる。
そこで、「TAG」という聞いたこともない言葉を創作して、「FTA」とは異なり日本側に不利ではない「特別な」交渉を始めるというストーリーを作ったのだ。
しかし、英文を読んだ米国内の関係者は、サービスも含まれているとすぐに理解するし、関税についても、ほぼ100%に近い関税引き下げを目指すFTAだと考えるだろう。この交渉で自分の分野を取り上げてくれと言い出す政治力のある企業も、もちろん出て来る。例えば、医薬品メーカーが、日本の医療制度、薬価制度などについて、難しい注文を出して来てもおかしくない。そういうことを含め、安倍総理としては、何とかして、日本の大手メディアが「TAGは捏造。本当はFTA」と書くのを止めたかったのだろう。それを忖度した外務省は、正文が英文だけであることを隠し、齟齬が目立たないように英文掲載を遅らせたのではないだろうか。
●WTOとの関係でもFTAでなければならない
ちなみに、ある国に対して関税を下げる場合、WTOのルールでは、「最恵国待遇」と呼ばれる大原則があり、他の全ての国に対しても同じように関税を引き下げなければいけないことになっている。この原則の下では、米国に対して関税を引き下げると、他の全ての国に対しても同じように関税を引き下げなければならなくなる。それを避けるためには、WTOで特別に認められたRTA(地域貿易協定)というものを結ばなければならない。このRTAには二種類があり、一つが関税同盟、もう一つが今話題になっているFTA(自由貿易協定)である。もちろん、RTAには「TAG」などという日本が勝手に作ったものは含まれない。つまり、米国だけに関税を下げるためには、名称は何であれ、実質的にFTAと言えるような広範にわたる貿易自由化を含む協定を作る必要がある。だから、最終的にまとまる時には、「TAG」ではなく、「FTA」になっているはずだ。