つまり、夫が浮気しているという確信からスタートすれば、虎雄さんの妻の反応はそんなにおかしな反応ではない、といえます。となると問題は、夫が秘書と浮気しているという確信がどうやって形成されているかです。ここでもやはり、インプットとアウトプットとの関係を検討します。

 2人で温泉旅行に行く相談をしているLINEを見たとか、ラブホテルから出てくるのを目撃した、というようなインプットだと、確信を持つのが妥当でしょうけど、虎雄さんの話を聞く限りは、さしておかしなことでもないようにも思います。にもかかわらず、妻が確信に近いものを持っているのは何なのでしょうか。

 こういう状況で理性的に説得するのは、納得していない気持ちを理屈で押し込めることなので、なかなかうまくいきにくいやり方です。

 であれば、まずは、うまくいっていない今の構図を変えることが必要です。理性的に説明する代わりに、何をするかが問題です。

 虎雄さんには、説明する代わりに、妻の話を共感的に聞くようにアドバイスしました。しかし、普段理詰めで仕事をしているせいか、なかなか共感がうまくいきませんので、サポートしながら妻と話し合います。

 共感的に話を聞いていると、今まで見えなかった相手の心のひだが見えてくることがよくあります。虎雄さん(と私)に見えてきたことは、妻は自分の存在価値が揺らいでいるらしいということです。昔は二人三脚で夫の仕事を支えていた実感があったのですが、今や夫は世界を飛び回ってバリバリ仕事をしていて、妻はといえば子どもたちはとっくに自分たちの世界で生きるようになっており、社長夫人としての内助の功といっても、具体的に何ができるわけでもありません。取引先と交渉したり、出張先で仕事の進展に応じて飛行機やホテル、通訳などの手配をしたり、場合によっては徹夜もいとわないやり手の秘書にはかないません。本当は、秘書のように夫の助けになりたいのです。

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相手の心のひだが見えてくるポイント