そして、妻は寂しいときに怒る人なのです。虎雄さんも、そのことは気づいてきました。そこで、「ああ妻は寂しいんだな」と思っていればいいのですが、

「秘書はあくまでも仕事のパートナーであって、人生のパートナーは君だ」

などとまた理屈で説得したくなるのです。そんなこと言えば、

「ほら、やっぱりパートナーだと思っているんじゃない!」

と逆襲されます。

 そんなこんなで、共感への道はなかなか長いのですが、それでも妻の態度は少しずつ軟化し、秘書との関係の話をされることはなくなりました。いつしか、お二人でカウンセリングに来るのが一緒に習い事に来ているかのような雰囲気を醸し出すようになり、そして、その後しばらくしておいでにならなくなりました。

 ポイントは、共感的に話を聞いていると、今まで見えなかった相手の心のひだが見えてくる、ということです。それが見えてこないのだとしたら、「共感的に話を聞く」というプロセスがうまくいっていない可能性があるので、話を聞くアプローチを変えてみる必要があります。(文/西澤寿樹)

※事例は事実をもとに再構成してあります

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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