米産トウモロコシ爆買い理由は「大ウソ」? 米中貿易摩擦“尻ぬぐい”の言いわけか

AERA
安倍政権
広大な畑で収穫される米国産トウモロコシ。日本で年間約2400万トン使われる飼料のうち半分ほどを占めるという(写真:gettyimages)
害虫被害による供給減を補うため、という菅官房長官の説明には矛盾が目立つ (c)朝日新聞社

 安倍首相がトランプ大統領に「爆買い」を約束した飼料用トウモロコシ。先日、アエラドットでは、腹心の菅官房長官が説明したその理由に、農業関係者から疑問の声が上がっていると報じた。今回の取材では「大ウソだ」と憤る声が聞かれた。

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「中国が約束を守らないせいで、我々の国にはトウモロコシが余っている。それを、安倍首相が代表する日本がすべて買ってくれることになった」

 G7サミットに合わせて8月25日に開かれた日米首脳会談後の共同会見で、トランプ氏は上機嫌で「商談」の成果を披露した。輸入される飼料用トウモロコシは275万トン程度の見込みとされ、通常の輸入量の約3カ月分。トランプ氏は日本の輸入額について「数億ドル(数百億円)」と述べている。

 菅義偉官房長官は27日午前の会見で、輸入について「(日本国内でトウモロコシの)供給が不足する可能性がある」と説明した。日本では、7月から「ツマジロクサヨトウ」というガの幼虫の発生が確認されていて、九州地方を中心に13県で被害が出ている(29日現在)。

 ところが、農林水産省は「現状で影響は出ていません」(植物防疫課)と供給不足を否定する。発生が確認された地域では、大量発生を防ぐために防除や早期の刈り取りを促しているが、作物への影響はわずか。「現時点で被害量はまとめていません」(同)という。

 ツマジロクサヨトウはアフリカやインドで農作物に大きな被害を出した危険な害虫であることはたしかだ。ただ寒さに弱く、「気温が10.9度を下回ると成長が止まります。最低気温が10度を下回る日が続く地域では越冬は難しい」(同)。

 現在でも発生が確認されているのは西日本以外では茨城と千葉だけ。日本での飼料用トウモロコシの生産量は年間約450万トンで、その半数以上を占める北海道では発生が確認されていないのだ。

 しかも、日本で被害が出ているトウモロコシは葉や茎ごと刈り取って発酵させるサイレージ用で、アメリカから輸入する「実」では代替できないという。鈴木宣弘・東京大教授(農業経済学)は、こう話す。

「牧草と同じように青刈りして繊維質を多く与えるのと、栄養価を高めるためにトウモロコシの実を与えるのは別のものです。家畜を育てるには両方をバランス良く与える必要があります」

 大手飼料メーカーの幹部は「野菜が足りないからとコメを輸入するようなもの。菅さんの説明は大ウソだ」と憤る。

 政府がつじつまの合わない説明をするのはなぜなのか。鈴木教授は言う。

「安倍政権は、米国との貿易交渉に入る前に『TPP以上の譲歩はしない』と説明してきました。それが、米中の貿易摩擦の“尻ぬぐい”でトウモロコシを日本が輸入することになると『TPP超え』になってしまう。そのことの言いわけに、『害虫被害が発生した』と説明したのでしょう」

 このままでは、今後輸入されるトウモロコシが国内でだぶつくのは避けられそうにない。前出の大手飼料メーカー幹部はこう嘆く。

「国内価格が暴落すれば、これまで高く仕入れたものを安く売らざるを得なくなり、商社と飼料メーカーが壊滅的打撃を受けることになる」

 トランプ氏を喜ばせた「ビッグディール(素晴らしい取引)」は、国内の業者にとってはまさに悪夢だ。

 鈴木教授は言う。

「害虫被害が限定的であることは調べればわかるのに、多くのメディアがそのことに触れていません。安倍政権の説明を“忖度”してそのまま報道しているとしたら残念です」

(AERA dot.編集部・西岡千史)

AERA 2019年9月9日号