青木校長はこう言い添える。
「本校の生徒たちは『自分が、自分が』という自己主張をあまりせず、とにかく人の話をよく聴きます。誰かの意見、他者の声に注意深く耳を傾ける姿勢がこの学校の在校生たち、卒業生たちの成長の原動力になっていると思います」
■アイデンティティーを喪失しやすい時代の中で
わたしはこれまでも何度か普連土学園を取材し、在校生たちや卒業生たちと話をする機会があった。同校で過ごした女性たちは、落ち着いた雰囲気を身にまとい、一度立ち止まって物事をしっかり考える「思慮深い」性格の持ち主が多いように感じられる。これは彼女たちが中高時代に「沈黙」の時間を体験してきたことと無縁ではないだろう。
山下さんによると、普連土学園の生徒たちには一脈相通じるこんな特徴があるという。
「芯のある子が多く、それを互いに認め合う雰囲気がある。特定の仲良しグループだけに属すのではなく、みんな交友関係が幅広いですね。少人数教育であるという点も大きいのでしょう」
冒頭に挙げたが、現代に生きる子どもたちは、同調圧力を日々感じたり、他者からの承認欲求が強かったりして、自己のアイデンティティーが揺らぎやすい環境に置かれている。
そういう時代であればこそ、「沈黙」の時間は、自身の心と向き合える贅沢なひとときになるのではないか。伝統的な普連土学園独自の教育観は、いまの時代にマッチしているのだ。
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