その静黙室でひとりの卒業生に話を聞いた。
山下美聡さん(33歳)。彼女は同校を卒業後、国際基督教大学に進学。その後、企業に就職したが、現在は育休中とのこと。1歳の女の子を持つ母親でもある。
彼女にとって沈黙の礼拝はどのような意味を持つ時間だったのだろうか。
「『沈黙』の礼拝は週1回20分程度ありました。正直、わたしは高校生になるまでこの時間に何をすればよいのか戸惑いました。しかし、あるとき先生から『沈黙の最初に泉を思い浮かべなさい。1週間かけてたまった心の中の水を少しずつ抜いて、そして、きれいな水を少しずつためていくイメージを持つ。その上で心を落ち着けて、神様との対話の時間が始まるのです』という話を聞いてから、沈黙に集中できるようになりました」
そのときにどんなことを考えていたのだろうか。山下さんはこう振り返る。
「たとえば、1週間の学校生活を振り返り、『あのときの友人に対することばづかいはよくなかったな』『もっと勉強がんばらないと……』、そんなことを考えていましたね。特に嫌なことがあったときに、この沈黙の礼拝の時間に助けられましたね。心が落ち着くのです」
■他者の声に耳を傾ける姿勢を培う
山下さんは大学時代にある転機を迎えたという。
「わたしが大学時代に少し不真面目になってしまったとき、ふと沈黙してみたら『ああ、中高時代に先生方に教えられたことをいまの自分は全然実践できていないな……』、そんなふうに反省させられました。沈黙すると細かなことに気づくことができますし、いろいろなものに感謝することができます」
そして、社会に出ると沈黙することの大切さをさらに痛感させられたという。
「会社員になるとそれまで以上に価値観の異なる人と大勢出会うようになります。人間関係に悩んだ時期もありました。そうすると、沈黙の時間がより大切になるんですよね」
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