27年にわたり中学受験指導を行っているベテラン塾講師・矢野耕平さんが、実際にかかわった受験生の実例や、自身で足を運んで取材した私立中高の様子をもとに、中学受験や学校選びのヒントをつづります。受験するなら知っておきたい、私立中学と中学受験の「リアル」とは――。

MENU ■「ギリギリ合格」の子が中学では成績上位に ■教育の目的は「自立」にある

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■「ギリギリ合格」の子が中学では成績上位に

 先日、とある男子進学校に通う中学生Aくんの母親が1学期の成績報告を兼ねて、わたしの塾を来訪してくれた。その彼の通う学校は首都圏最難関レベルと形容できる一流の進学校であり、学力的に学年の上から3分の1の位置にいれば、東京大学合格は間違いないと言われているところだ。

 その母親はこう切り出した。

「1学期の成績結果が出たあとに、同級生のお母さんたちと話す機会があったのです。そこで判明したんですが、中学受験時に親が徹底してわが子の学習管理をしていたところほど、成績的に苦しんでいるみたいですね」

 そして、母親が成績表を見せてくれた。1学年200人以上在籍しているのだが、Aくんの総合順位は1ケタという良好な結果。わたしはびっくりしてしまった。中学入試の得点結果は開示されないので確かなことは言えないが、Aくんはこの学校におそらくギリギリで合格できたのだろうと思っていたからだ。

 そんなわたしの驚きの表情を見た母親はほほえんで、こんなふうに言葉を継いだ。

「矢野先生が知っている通り、わたしは息子の中学受験勉強には一切タッチしませんでした。そう周囲に言うと驚かれるのですが……。振り返れば、息子は毎日塾の自習室にこもって、分からない問題があればその場で解決しようとしていましたね。その経験がいま生かされているように感じています。わたしのような『意識の低い』親だったからこそ、いま本人はのびのびと学びを楽しめているのかもしれない」

 そんな母親の冗談交じりの話を耳にしながら、わたしは拙著『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社+α新書)に書いたことをふと思い出した。その部分を引用してみよう。

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矢野耕平
矢野耕平

矢野耕平(やの・こうへい)/中学受験専門塾スタジオキャンパス代表・国語専科 博耕房代表。1973年生まれ。著書に『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社+α新書)、『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』(ともに文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校 VS 新名門校』(SB新書/SBクリエイティブ)、『早慶MARCHに入る中学高校』(朝日新書)など多数。

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