(3)最先端の医療技術がスポーツに悪用されるおそれ
「ドーピング」とは、競技でよい成績を得るために、筋肉増強剤を摂取するなど、禁止されている薬物や方法を使用すること。1999年に世界反ドーピング機関(WADA)が設立され、世界共通のルールが定められたが、オリンピックなどでの違反者が後を絶たない。これまでは薬物違反が主流で、尿や血液の検査をすればわかったが、科学技術の進歩により、ドーピングも高度化している。
現在、WADAが危機感を強めているのが「遺伝子ドーピング」だ。肉づきをよくしたり、早く成長したりする養殖魚等を得るために開発されたゲノム編集を悪用すると、技術的には選手の筋肉を増強できる。
また、京都大学などのチームが主に病気治療のためにiPS細胞を使って筋肉を再生させる技術の実用化を進めているが、これも将来、悪用されるおそれがある。
こうした技術がやっかいなのは、尿や血液を調べてもわからないことだ。悪用されるとスポーツを滅ぼしかねない。
WADAは、2022年の北京五輪から、指先からの採血で簡単に検査できる方法を本格的に導入する予定のほか、人工知能(AI)も活用して、ドーピングの撲滅をめざしている。
(4)筋肉が増えると“燃えやすい”体になる
体重を落とすために、食事を減らしているという人はいないかな? 実は食べる量を減らすと筋肉の量も減り、“燃えにくい”体、つまり、太りやすい体になってしまう。どういうことだろう?
私たちが日常生活で消費するエネルギーの約60%は、体温の維持や呼吸など、生命の維持のために使われる。これを「基礎代謝」という。体を動かすために使われるエネルギーの割合は約30%。このほか食べ物を消化・吸収するために、約10%のエネルギーを使う。
基礎代謝は人によって異なり、特別に運動しなくてもエネルギーをたくさん使う“燃えやすい”体の人と、“燃えにくい”体の人がいる。この違いは筋肉の量に比例し、筋肉が減ると基礎代謝量は下がり、筋肉が増えると基礎代謝量は上がる。具体的には、「筋肉が1キログラム増えると1日あたり20~50キロカロリー基礎代謝量が増える」といわれている。また、筋肉が増えると、活動時のエネルギー消費量も増える。
ダイエットで筋肉量が落ちると、本来、なりたい体と正反対の結果にもなりかねない。科学的な知識を身につけて、体づくりに生かせるといいね。
※月刊ジュニアエラ 2020年10月号より