やり切る癖をつけるのは「怖い」一面も

安浪:中学受験に対して未経験だから言えないということですが、実は他のことについてもそうなのかな、対等に意見を言い合える関係じゃないのかな、という感じも受けますね。。ただ、住んでいるのが関西だと今でもガチ受験の方が多く、「極限までやり切るのが当然」という思想がいまだに根強いのは事実です。

矢萩:何がなんでもやり切る癖をつけるって実は怖い一面もあるんですよ。 例えば全然合わない職場なんだけど1回入っちゃったからずっといなければならない、と思ってしまうかもしれないし。自分軸をしっかり持った上で、これは最後まで続けるんだとか、これは途中でやめていいんだとか、あるいは状況が変わったから、新たにもう1回選択をし直すんだとか、そういった見分ける力をつけることが大事です。やり切ることは大事だけど、別にやり切らなくてもいいことをズルズル続けてもしょうがないので、なんでもかんでもやり切る癖をつけることに僕は反対なんですよ。

安浪:そして何より大切なのが、お嬢さん自身がどう思っているのか。自分でも「やらなきゃ」と主体的に思っているなら、お母様の役割はわが子の心身が崩れないようなサポートをすることだと思います。でも本人がイヤイヤお父さんに付き合って勉強していたとしたらかわいそうだし大変です。もし、0時過ぎまで勉強したのに、それがテストとして点数に繋がらなかったら、「あれだけやったのに!」って怒られるかもしれない。完全に逃げ道がない状態で、これでは潰れてしまいます。

矢萩:そう。最初の話に戻りますが、「決めたことをやらされている」状態ではなくて、本人が主体的に「決めたことを最後までやり切る」状態だったらいいと思います。0時回っているけれど、ここまでやっちゃいたい、って本人の意志があるなら問題ないです。そこを間違えると、せっかくやっていても頭に入りづらい。意志と理解は連動します。あとは、保護者がちゃんと点数や偏差値ではなくて経験や成長にフォーカスする姿勢を見せることですね。頑張った分結果が出れば自己効力感につながりますが、出なかった場合努力に意味を感じなくなってしまいかねません。たとえやったことがテストに出なくても、また成績に表れなくても、やったらやった分だけ成長しているんだという実感を持つことが、中学受験を経験する上で最も大事なことの一つだと思います。

(構成/教育エディター・江口祐子)

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安浪京子
中学受験専門カウンセラー/算数教育家 安浪京子

やすなみ・きょうこ/「きょうこ先生」として親しまれている中学受験専門カウンセラー、算数教育家。佐藤亮子さんとの共著『親がやるべき受験サポート』(朝日新聞出版)が好評。最新刊は『中学受験 大逆転の志望校選びと過去問対策 令和最新版』(ダイヤモンド社)。オンラインサイト「中学受験カフェ」主宰。

矢萩邦彦
中学受験塾塾長 矢萩邦彦

やはぎ・くにひこ/「知窓学舎」塾長、多摩大学大学院客員教授、実践教育ジャーナリスト。「探究学習」「リベラルアーツ」の第一人者として小学生から大学生、社会人まで指導。著書に『子どもが「学びたくなる」育て方』(ダイヤモンド社)『新装改訂版 中学受験を考えたときに読む本 教育のプロフェッショナルと考える保護者のための「正しい知識とマインドセット」』(二見書房)。

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