「文字が読める」ほかに、読書に大切な力があります

――内容を理解できないのは、語彙力が追いついていない、ということですか?

 語彙力ももちろん大切ですが、もうひとつ、読書は「想像力」も大いに活用します。よく「行間を読む」といいますね。そこには直接書かれていないけれど、状況を察したり、そこに込められた意味や気持ちをくみとったりすることです。

 よく見かけるのが、子どもが「読める読める!」といいながら、読み終わって感想を聞くと、まったくなにも理解していなかった、というパターンです。物語をすべて読んで、その「オチ」がわからなかった、というケースも多いですね。物語のオチって、いちばんおもしろいところでありつつ、あえて細かい描写が省かれたものも多い。まさに行間を読む力や、文章全体を把握する「文脈を読む力」が必要とされる場面です。これがないと、せっかく頑張ってここまで読んできたのに、最後の最後でなんだかモヤモヤしてしまうのです。

 文章は、一文一文の集まりです。オチがピンとこないいくつかの文が集まって段落となり、その段落がいくつも続いていく。でも、一文一文は理解できても、その一文の前後、さらにはもっと前や後ろがどうなっていたかわからなくなってしまうから、なんですね。でも、文を映像にして頭の中でつなげられると、物語全体を把握しやすくなります。

 さらに、物語を読み進めるには、前のことを「覚えている」こともとても大切です。最近、教育業界では「ワーキングメモリ」という言葉が注目されています。今やっていることとは別のことや前のことを、頭の中に残しておくことです。本を一章読んで、本を閉じて「どんなことが書いてあった?」と聞いたときに答えられるかどうか、ということですね。長い物語を読むなら、少し前の記憶をきちんととっておける容量のワーキングメモリが必要ですよね。

 本当はおもしろい物語のはずなのですが、読んだあとに感想を聞いてみると「いまいちおもしろくなかった」と浮かない顔で答える。それは、文字は読めるけれど、上記のようなスキルが本のレベルにまだ見合っていないということ。あるいは、その本が子どもの「好みが合わない」のではなく、「わかっていないから答えられない」ということかもしれません。

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