「孺悲(じゅひ)、孔子に見えんと欲す。孔子、辞するに疾(やま)いを以(も)ってす。命を将(おこな)う者、戸を出(い)づ。瑟(しつ)を取りて歌い、之(こ)れをして之(こ)れを聞かしむ」(陽貨第十七)

「孺悲という人が、孔子に面会をもとめたが、孔子は病気だといって会わなかった。取次の人が断りを伝えるためにドアを出ていくと、すぐ瑟(しつ=琴のような楽器)を引き寄せ、歌声がきこえるように歌をうたって、孺悲の耳に入るようにした」という意味です。

 孺悲という人がどのような人か分かっていません。でも直接、孔子を訪ねてきた人だったので、相当の身分の人だったのでしょう。一説では、魯(ろ)の国王・哀公の依頼で、孔子から冠婚葬祭の礼儀作法を学んだ人とも言われています。この人物があるとき、孔子に面会を希望したが、孔子は彼に会いたくなかった。それで病気だといって断ります。でも実際は病気ではないことを知らせ、「会いたくないのは拒絶させる原因が孺悲のほうにある」と婉曲に知らせて追い払ったのです。

 忖度、同調圧力、無責任主義……日本の集団は息苦しいものです。自分の意見や行動基準を保つ訓練をしていないと、集団のものの見方にすぐ感染してしまいます。どうぞ、相談者さんと妻は、周りに影響を受けないでください。PTA役員を引き受けたのだとしたら、自分たちにもっと自信を持って、忖度や付和雷同はやめて、思っていることを言えるよう、できない仕事はNOと断れるようにしましょう。そうすれば、道は必ず、明るく開けるはずです。

【まとめ】

 社会を変えて、よりよい社会を創るために必要なのは、「和して同ぜず」という力

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山口謠司
山口謠司

山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。平成国際大学新学部設置準備室学術顧問。大東文化大学名誉教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。2021年12月に監修を務めた『チコちゃんと学ぶ チコっと論語』(河出書房新社)が発売。ラジオパーソナリティ、イラストレーター、書家としても活動。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。

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