大きな黒い羽を持ったグンカンドリは、私たちの船と一緒に並行して飛んでくれた。それも鳥のほうから近づいてきて、わざわざ挨拶をするような感じで。
ガラパゴスの生き物たちは非常にのびのびと暮らしていて、あくせくしていない。おそらく天敵もいないし、エサに困ることもないからでしょう。そうした彼らの「余裕」が人懐っこさや好奇心につながっているのだと思います。
■限られた資源を奪い合わない
次に、ガラパゴスの生き物たちの面白いところは、自分の生き方を巧みに選んで「すみ分け」をしていることです。
例えば、ガラパゴスイグアナには、ウミイグアナとリクイグアナがいます。もともとはトカゲで一つの種だったわけですが、そのうち海辺にすむイグアナは泳げるようになって海に潜って海藻を食べ、陸にすむイグアナはサボテンなどの植物を食べるようになりました。限られた天然資源を奪い合わないように、うまくすみ分けて生活しているのです。ガラパゴスのあらゆる生き物たちは、環境に適応し、生き方を選んで工夫することで、ここを楽園に変えました。こうした生物のあり方はとても驚くべきことです。
■島だけでなく、海もきれい
そして、ガラパゴス諸島は島に注目しがちですが、海もすごくきれいなんです。
ガラパゴス諸島は火山島なので、水深3000mくらいの深いところから山になっていて、そのほんのちょっと先が島になっている。だから海に入るとすぐ下がストーンと切れ込んで、底が見えないくらい深い海になっています。非常に怖いんですが、潜って水中眼鏡で見てみると、色とりどりの魚が泳いでいたり、ウミガメやマンタというエイが悠然と泳いでいたりと、まさに楽園です。
ガラパゴスは赤道直下にありますが、太平洋から寒流も流れてくるため、すごく涼しいのです。この寒流が島にぶつかって山の斜面を上っていくことを「湧昇」といいます。この湧昇が起こると、海の深いところに沈んでいた有機物やミネラルなどの栄養が持ち上がってきて、それをエサにするプランクトンが大量に発生する。そしてそれを食べる小さな魚、さらにそれを食べるペンギンやアシカや大型の魚も繁栄します。そのため、ガラパゴスの海はここまで豊かになるのです。
(構成/ジュニアエラ編集部・吉田美穂)
○『新ドリトル先生物語 ドリトル先生 ガラパゴスを救う』
朝日新聞連載の書籍化。医者のドリトル先生と助手のスタビンズ少年は、英国の調査船が南米に向かうことを知る。ガラパゴス諸島にも向かうと聞き、島の大自然が英国によって荒らされるのを防ぐべく、先生とスタビンズ、オウムのポリネシアたちは手作りの気球でガラパゴスを目指す。だが気球は墜落して不時着し――!? 一行はガラパゴスを救うことができるのか? 奇想天外で楽しい冒険物語にして、10歳のスタビンズ少年が、自然や社会を知っていく成長物語。
福岡伸一