香港・林鄭月娥(キャリー・ラム)(c)朝日新聞社
香港・林鄭月娥(キャリー・ラム)(c)朝日新聞社

■ポーランドと重なる

 昨年の区議会議員選挙に立候補して当選したある若手議員からこんなメールが届いた。

「自由と民主主義に対する締め付けは強烈で、中国共産党と香港政府が今後何をやってくるのかと恐れています。彼らは手段を選ばないから。でも、何があっても、私たちは良心を失わず、最善を尽くすしかありません」

 私は議員にこう返した。

「自由な香港を取り戻すまでに10年以上かかるかもしれない。でも大丈夫。あなた方はまだ若い。諦めることなくじっくりと歩んでください」

 かつて、共産陣営の盟主だったソ連の支配下にあったポーランドで、数百万もの国民が参加する民主化運動が高揚した時、危機感を覚えた権力者は、ソ連の意向を汲む形で軍を出動させて戒厳令を布告(1981年12月)。活動家はみな投獄され、運動は息絶えたように見えた。だが、実際は息を潜めていただけで、民主化を求める人々の情熱は失せていなかった。7年余り続いたポーランドの戒厳令はソ連の民主化にともなって撤廃され、まもなく共産党の独裁体制は終焉。その動きはベルリンの壁の崩壊やチェコスロバキアのビロード革命へとつながっていく。

 私には、当時のポーランドと今の香港とがダブって映る。両者とも、自由と民主主義を求める人々の運動があまりにも強く大きくなったがゆえに、恐れをなした支配者が戒厳令や国安法といった強権を発動して徹底的に制圧した。だが、ソ連が70年余りで崩壊したように、中国における共産党の独裁体制が永久に続くとは思えない。

 知恵をもち情熱を内に秘めた香港市民なら、10年20年の長期戦に耐え得るはず。香港の民主化をめぐる動きは、今後そういう長期的な視点で見守ることになるだろう。

11月23日、裁判が始まる前に記者団の前で話す民主活動家の黄之鋒(右)や周庭(左)ら(c)朝日新聞社
11月23日、裁判が始まる前に記者団の前で話す民主活動家の黄之鋒(右)や周庭(左)ら(c)朝日新聞社

 昨年、警察本部を包囲するデモを扇動した罪(公安条例違反)で起訴された黄之鋒、周庭ら民主活動家3人(いずれも20代)の公判が11月23日に香港の西九龍裁判所で行われた。弁護士の助言を聞き入れた3人は起訴内容を認め、これによって裁判所は有罪を宣告した後3人を即日収監。「保釈」の継続は認めなかった。

 公判前、黄之鋒は「投獄されようが、口をつぐみはしない。私たちは、世界に向けて自由の価値を示しており、そのことで、自分たちの自由を犠牲にすることになろうとも致し方ない」などと語り、周庭は「不安はあるが、より重い罪に直面している仲間たちへの支援を」と訴えた。

 刑期の言い渡しは12月2日に行われるが、重ければ「懲役5年」、軽くても「禁錮3年」は免れない見込みだ。(ジャーナリスト・今井一)

※AERA 2020年11月30日号に加筆