5月9日、モスクワの「赤の広場」で行われた対独戦勝記念日の軍事パレードで演説するプーチン大統領。「本物の戦争」という表現を使い、国民に結束を呼びかけた(代表撮影/ロイター/アフロ)
5月9日、モスクワの「赤の広場」で行われた対独戦勝記念日の軍事パレードで演説するプーチン大統領。「本物の戦争」という表現を使い、国民に結束を呼びかけた(代表撮影/ロイター/アフロ)
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 ロシアのプーチン大統領はなぜウクライナ侵攻を決断したのか。それを探るには、歴史的経緯や思想的背景を多角的に考察する必要がある。知日派として知られる国際政治学者、ジョセフ・ナイ氏が語った。AERA 2023年6月5日号の記事を紹介する。

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 なぜ、ロシアはウクライナ侵攻を始めたのか。そもそもプーチンが「ウクライナはロシアとは別の国」との考えを受け入れることはないのです。

 彼は「ルースキー・ミール(ロシア世界、またはルーシ世界)」という思想を持っています。ロシア語を話し、ロシア正教を信仰する領域を独自の文明圏とみなすという概念で、キエフ・ルーシ公国と同一の起源を持つと考えるため、ウクライナをロシアの一部と考えています。このため、現在、ルースキー・ミールの立場をとらないウクライナを破壊するしかないとプーチンは思っているのです。この戦争について彼は「ロシア帝国の事実上の復興」と見ているのかもしれません。

 4月26日には、ウクライナのゼレンスキー大統領と中国の習近平・国家主席が電話会談を行いました。中国は事実上の同盟国であるロシアを支援すると同時に、ヨーロッパを敵に回し過ぎないようにしてきた。ヨーロッパは中国の狡猾なやり方にうんざりしています。中国は和平を提案することでそのような立場を挽回しようとしているのでしょう。中国側からの提案を見るとあまり現実的な内容ではないので、今後もう少し現実的な提案を出してくることも考えられます。いずれにしろゼレンスキーが望んでいるのは、この戦争が中国にとってプラスにならないよう注意しながら、ロシアの同盟国にプレッシャーをかけることかもしれません。

 ウクライナ経済は破壊され、都市基盤の多くが破壊されています。この戦争が終わったとき、西側諸国がウクライナ再建を本気で支援するかどうか、ゼレンスキーは見極めなければなりません。仮に停戦が実現したとしても安全保障の問題は残ります。というのも、プーチンは停戦の1、2年後にまたウクライナに侵攻するかもしれない。

 そうさせないためには何が必要か。各国政府や企業がウクライナに入って経済再建を支援する前に、ウクライナの安全を再確認する対策が必要です。それはゼレンスキーにとって相当困難な仕事になるでしょう。

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