AERA 2023年5月15日号
AERA 2023年5月15日号

 二つのタイミングを逃すと、解散は24年に先送りとなる。第3のケースである。年明けの通常国会では防衛増税などが大きな焦点となり、野党の追及は厳しさを増す。9月に自民党総裁選を控えて、党内では岸田氏に代わる「新しい選挙の顔」を求める動きが活発になりそうだ。岸田首相は通常国会終盤の6月ごろに解散・総選挙のタイミングを狙うが、党内の主導権を維持できるとは限らない。

 以上のような選択肢の中で、岸田首相としては少なくとも23年中に解散を断行して防衛費増額や少子化対策などを進め、24年9月の総裁選での再選をめざす。さらに3年間の任期を勝ち取り、財政再建などの懸案に取り組みたいのが本音だ。

 だが、現実には多くの落とし穴が待ち受けている。

■「政変」につながる芽

 まず、23年中の解散に持ち込めるのか。夏や秋の解散には野党から「自民が勝ったら増税は必至」という批判が出る。岸田首相は防衛費増額分の一部を増税で賄うことを明言しており、少子化対策についても財務省からは「いずれは増税が避けられない」という声が出始めている。選挙時には増税論を封印し、自民が勝ったら増税に動くというのでは「国民の支持は得られない」という不満が党内からも噴き出しそうだ。そうした声を振り切って岸田首相が解散に踏み切れるかが焦点だ。

 そして、総選挙で岸田自民は勝てるのか。今回の統一地方選で維新は関西を中心に地方議員を大幅に増やした。大阪の府議会と市議会では、ともに維新単独で過半数を確保。これまでは数の上でも公明の協力が欠かせなかったが、今後は公明に配慮しなくともよい。そのため、衆院で公明が議席を維持している大阪府内の4選挙区でも維新の公認候補を擁立する可能性が出てきた。公明は大阪で議席を減らすことも見越して東京や埼玉の小選挙区で新たな議席を確保したい方針。それが自民との候補者調整で摩擦を生みそうだ。

 今後の経済動向も不安材料である。インフレ対策のために利上げを続けている米国は景気減速の傾向で、日本にも波及しそうだ。日本国内でも景気は足踏みが続き、家計所得も伸び悩んでいる。少子化も歯止めがかからない。物価高や高齢者の医療費負担増などへの不満も募っている。岸田首相が長期政権を狙って早期解散に踏み切っても、有権者は冷ややかな反応を示す可能性がある。総選挙で自民が大幅に議席を減らすようだと、岸田氏の責任問題に直結する。自民党内の混乱は必至。それは、与野党入り乱れての「政変」につながる芽をはらんでいる。(政治ジャーナリスト・星浩))

AERA 2023年5月15日号より抜粋