
■奇想天外なド迫力映画、監督と映画音楽家の一騎打ち
○映画音楽作曲家、シンガー・ソングライターの世武裕子さん
「奇想天外」というテーマで、まず思い浮かべたのがリューベン・オストルンド監督の作品です。最新作「逆転のトライアングル」を観ても、本当に頭のいい監督だと感じます。画のつくりもパキッときれいにデザインされていますし、セレブを乗せた豪華客船を舞台に、軽快な語り口で物語は始まり、その先にあるメッセージはガツンとくる。観客が居心地の悪い思いをすることを狙って描いているわけですが、決して人間の愚かさを否定しているわけではないんですね。批判的ではあるけれど、それを自覚したうえで生きていこう、というメッセージを込めたアイロニーであり、監督の視点の優しさと厳しさを感じます。
多くの監督であれば、感情を音楽で説明しようとするところを、オストルンド監督は環境音や音響効果を“音楽”のように使用しているのも面白いところです。たとえば、人間関係が動くときには風の音を入れるなど、音楽に任せようとはしない。一方で、音楽を“音響効果”のように使ったりしています。自分なりのアイロニーを伝えるにはどうすればいいか、ノウハウを熟知している監督だと思います。
「聖なる鹿殺し」をはじめとするヨルゴス・ランティモス監督の作品も、精神的に元気でなければ観られない作品ではありますが、音楽の使いかたが面白いと感じます。
あえて挑発してくるような音楽ですが、そのあざとさが決して作品を飛び越えてはいかない。常に品を保っているところが素晴らしい。監督と映画音楽家が“一騎打ち”をしているような感覚もあります。
度肝を抜くような作品は、100%の割合で音のつくりもいい。奇想天外な物語は「音」なくして語れないと思います。
(構成/ライター・古谷ゆう子)

■音なくしては語れない
○監督の揺るがぬ哲学に圧倒される
「逆転のトライアングル」/リューベン・オストルンド(2022年)/全国公開中/Fredrik Wenzel/配給:ギャガ
○映画=総合芸術を実感、サウンドにも注目を
「MONOS 猿と呼ばれし者たち」/アレハンドロ・ランデス(2019年)/Blu‐ray 5280円(税込み)/発売元:ザジフィルムズ、インターフィルム
「ファニーゲームU.S.A.」/ミヒャエル・ハネケ(2007年)
「ザ・フライ」/デヴィッド・クローネンバーグ(1986年)
「脳に烙印を!」/ガイ・マディン(2006年)
「ネオン・デーモン」/ニコラス・ウィンディング・レフン(2016年)
「スキャナーズ」/デヴィッド・クローネンバーグ(1981年)
「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」/ヨルゴス・ランティモス(2017年)
「マッドマックス 怒りのデス・ロード」/ジョージ・ミラー(2015年)
「最後にして最初の人類」/ヨハン・ヨハンソン(2020年)
※AERA 2023年5月1日号-8日合併号