蒸し米にかけられる麹菌。米の中に菌が繁殖することで麹ができる
蒸し米にかけられる麹菌。米の中に菌が繁殖することで麹ができる

 倍の手間と時間がかかったが、14年、蔵で造る酒の全量を生もと造りに変えた。「白麹菌」を使った酒造りにも挑んだ。これには、ほかの蔵元たちも驚いた。米に含まれているデンプンを酒の発酵に必要な糖に変える役割を持つ麹菌は、日本酒造りでは「黄麹菌」という種類が昔から使われてきた。デンプンを糖に分解してくれる酵素が多く作られ、麹造りに適していたからだ。

 常道に反し、焼酎造りで使われる白麹菌を用いた。デンプンの分解力は弱いものの、雑菌の繁殖を抑える特徴がある。

 白麹に目をつけたのは、まだ生もと造りに習熟していなかったころ、無添加の酒造りにつながると思ったからだ。人工的な「乳酸」を添加せずとも酒造りに必要なクエン酸という「酸」を加えることができる。

 佐藤が09年に誕生させた酒「亜麻」は白麹を用いた日本酒の代表銘柄になった。

 いまの日本酒のスタンダードは「十四代」に代表されるように黄麹が引き出す栗のような甘さを伴った酒だ。これに対し、「亜麻猫」は白ワインのような酸を伴う。視線の先が世界に向かう佐藤は言う。

「江戸時代の酒はもっと酸味が強いものだった。それをモダンに洗練させたスタイルだから、味の面でも文化的な価値でも飲み手にも受け入れられやすい。日本酒という伝統産業が大量生産品を作るたんなる加工業にすぎなかったら存在する意味を持たない」

(文中敬称略)(朝日新聞記者・岡本進)

AERA 2023年4月10日号より抜粋