「コンビニ百里の道をゆく」は、53歳のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。
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4月ですね。入学や入社、異動で新天地での生活を始められた方も多いと思います。
ずっと実家暮らしだった私が初めて「引っ越し」をしたのは学生時代、米国オレゴン州の大学に留学したとき。とてもワクワクした気持ちで米国行きの飛行機に乗ったのを覚えています。1カ月のホームステイを経て、自分でアパートを探し、中古家具屋さんでマットレスやテーブルなどを揃えました。少しずつ自分の生活が整っていく、それも楽しかったですね。
一方で、米国に溶け込もうと自分なりに一生懸命だったのでしょう。「とにかく肉を食べるぞ」なんてやっているうちに体調を崩し、胃腸炎になってしまったことも。やはり初めての一人暮らしの緊張感もあったのだと思います。
次の引っ越しは、就職で東京に出てきたとき。新幹線で東京駅に着き、小腹が空きました。大阪人なので「うどんでも食うか」ときつねうどんを頼んだのですが、見たことのないような黒い出汁のうどんが。衝撃でした(笑)。「ああ、これからはこの出汁と付き合っていくんだな」と。ここでもやはり東京に「合わせて」やっていこう、と考えていたように思います。
社会人になり、米国に赴任したときが3回目の引っ越し。もう「その地に合わせないと」みたいな気負いはなくなり、「同じ地球人だしな」と自然体でした。でも、やはり新しい生活のストレスはあったと思います。
引っ越しは、自分の人生にまた一本、新たな線を引いて「この土地でがんばっていこう」と気分を一新できる機会です。ただ、ワクワクするその気持ちの陰で、少なからずストレスも感じているものです。
「早く慣れよう」という過剰な気負いを持たず、自然体でゆっくりと新生活になじんでいく。その心がけは大事なポイントかなと思います。
竹増貞信(たけます・さだのぶ)/1969年、大阪府生まれ。大阪大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。2014年にローソン副社長に就任。16年6月から代表取締役社長
※AERA 2023年4月10日号