大手化粧品会社ポーラは、2029年までに管理職の占める女性の割合を50%にすることを目標に掲げている。そのために、女性社員が昇進に躊躇しない環境づくりが大事だというのは、同社の及川美紀社長だ。ポーラの取り組みと管理職の醍醐味を語ってくれた。AERA 2023年3月27日号の記事を紹介する。

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「君には足りないところがたくさんあるから、社長をやってもらう」

 社長就任の通達があった時、親会社の委員会から言われた言葉です。これまで、会社から「君に期待しているのはこういうこと」など、具体的に何かを言われたことがありません。だからいつも、「会社は私に何を期待して、このポジションを与えたのかな」と考えるところからスタートするのが常。社長としての仕事も、同じように始まりました。

 私が管理職の昇級試験(課長試験)を初めて受けたのが36歳のとき。入社3年目の25歳で結婚し、その3年後に出産したので、管理職試験を受ける頃には、子どもは小学生。その頃の私は、出向先の販売会社で、粉骨砕身、誰よりも働いていると思い込んでいました。管理職試験を受けたきっかけは、給料アップのため(笑)。ところが試験にはあっけなく落ち、酷評のフィードバックがありました。

 試験に落ちた私は、「こんなに頑張っているのに誰も見てくれない」と、半年ほど“グレた”時期もありました。ある時、自分をよく知るショップのオーナーから「これ以上がっかりさせないで」と言われたのをきっかけに目が覚め、この先、何がしたいのかを考えました。その時、自分のポジションを上げるのは、組織の未来を作ることでもあると実感。以来、仕事に対する取り組み方が変わりました。

 翌年、課長試験に受かるとすぐ、部長職であるエリアマネージャーに。30代の女性エリアマネージャーはあまり例がなかったので、社内では「全国の営業会議で厳しい指摘を受けても務まるかな?」と思われていたようです。ところが管理職になってみたら、これが楽しかった。裁量が増え、仕事の主導権を握れるようになると、むしろ子育てとの両立もしやすくなったのです。責任は重くなるけれど、できることも増える。可能性が大きく広がったと思いました。

 当社では今、2029年までに女性管理職の割合を50%にすることを目標に掲げ、女性社員のキャリア形成支援に取り組んでいます。ライフステージの変化に直面する女性社員が、昇進を躊躇(ちゅうちょ)しないためには、「自分も将来リーダーになる」「この会社で活躍できる」とイメージできる環境をつくることが大事です。そのため、役職候補者のリスト作成時に、結婚や出産、育児などを理由に、上司がリストアップしないなどの「バイアス」を取り除く研修や、両立支援制度を実際に使いやすい体制作りなどにも力を入れています。現場に近い管理職ほど、理解者として寄り添う姿勢も必要です。

 女性の管理職が増えると、組織としての視野も可能性も、さらに広がるはず。そして管理職になると、自分の世界が広がることを働く女性に伝えたいです。

(ライター・松岡かすみ)

AERA 2023年3月27日号