米国でマスク姿の人は少ないが、新型コロナウイルスの流行が終わったわけではない。医療体制は逼迫し、閉店したままの店舗も。コロナに疲れ切った人が少なくない。AERA 2023年1月30日号の記事を紹介する。
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「この3年、マスク、マスクと言われ、うんざりだ。もうマスクなんてどうでもいい」
バーテンダー一筋50年のベージル・フェレオさん(70)は言う。
レストラン従業員のマナーやルールには厳しい人だ。トランプ前大統領のようなマスク反対派ではなく、これまでは従業員のマスク着用は必要と考えていた。しかし、「マスク疲れ」がプロの彼を襲っている。
2020年春、世界最大の新型コロナウイルス感染爆発地となったニューヨーク。日本からの旅行客は「マスクの人が少ない」と驚くが、実はマスク事情はいまだに紆余(うよ)曲折している。
■一時期はマスク復活も
直近の変化は、昨年12月のクリスマス休暇前に起きた。夏の終わりから落ち着いていた感染者数が増加し始め、休暇中には1日の感染者が10万人を超える日もあった。ニューヨークの地下鉄では、乗客のほとんどがマスクをしていなかった状態から一変して半分ほどがマスクを着用するようになった。N95など高性能マスクをしている人も久しぶりに見かけた。
クリスマスは米国最大の帰省シーズンで、全米自動車協会によると、80キロ以上旅する米国人が約1億1300万人と見込まれていた。実に人口の3分の1が移動することになる。家族との再会を前に感染を警戒し、閑古鳥が鳴いていた無料の検査テントに人が並ぶ風景も復活した。
一方、パンデミックとなって3年目の今年冬、米国は過去2年と異なる危機にも襲われている。インフルエンザとRSウイルス感染症(RSV)の流行だ。会議などでせき込んでいる人が「ソーリー、RSVが長引いていて」と、新型コロナではないことを出席者に断っている姿を見ることもある。
英紙ガーディアンによると、米国の新型コロナ感染件数の4割が、感染力が極めて強いオミクロン株の亜系統「XBB.1.5」によるものだ。特に北東部では、12月25日から1週間の感染件数の75%以上を占めた。