バキバキになって気づく愚かな私(イラスト:サヲリブラウン)
バキバキになって気づく愚かな私(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 今週は、いかに私が愚かな大人かという話をします。

 先日、いつもお世話になっている整体へ行ったところ、首から肩はもちろんのこと、腕全体も右側が異様に凝り固まっていると言われました。

 おっしゃる通り。月曜日の朝、起きたら右上半身だけバキバキになっており、整体の予約日が来る前に、別のところでほぐしてこようかと思ったくらい。こんなことは久しぶりです。

 執筆業務が特別忙しかったわけでもなく、思い当たる節はありません。施術者さんは大変心配してくれて、右腕を下にしたまま長時間寝てないかとか、なにか重いものを持ってないかとか、いろいろと尋ねてくれたけれど。1時間、精いっぱいほぐしてもらい、体はだいぶ楽になりました。

 帰宅して部屋着に着替え、いつものようにソファに座ります。横になり続けると体が歪むと言われたので、ちゃんと座って。どうしてバキバキになっちゃったのかしら~なんて思いながらスマートフォンの画面をスクロールし、私は気付きました。これだ!

 先日、スマートフォンを新調しました。カメラの性能を最優先したので、今度のは以前のよりうんと重いのです。私はこれをずーっと、肘を曲げた状態の右手で持っています。そのせいで右上半身がバキバキになったに違いない。

イラスト:サヲリブラウン
イラスト:サヲリブラウン

 では、右手で持ったままなにをしていたかというと、インスタグラムのリール動画を延々と観ていたのです。都会では飼えないロットワイラー犬が庭で遊びまわる動画、ようやく妊娠したことをパートナーに伝えるアメリカのサプライズ動画、初めてレモンを食べてびっくりするメキシコの子ども。ひとつの動画が30秒から2分くらいにもかかわらず、私はこれを1日2時間は観ています。どうかしてる! 映画一本観た方がよっぽどいいのに。

 ティックトックに夢中になる若者を見ては「なにが面白いのかわからんわー」と醒めていたのに、気付けば同じことをしているではありませんか。しかも、腕を痛めてまで。

 今回ばかりは、さすがに自分にゲンナリしました。なにをしているんだ私は。

 しかし、さすが世界のトップエリートエンジニアたちが構築したSNSシステム。次から次へと動画が出てくるので、あっという間に時間が溶ける。試しにちょっと観てみるといいですよ。腕を痛めない程度にね!

○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中

AERA 2022年12月12日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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